参考文献/資料集 1925(大正14)年

(公開:2007年2月13日 最終更新:2021年6月7日)
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2月

(タイトルなし)

『子供の科学』 2月号

 紅色ダイヤの巻はこれで終りましたが、俊夫君は次の号から、別の方面で大活躍をします。三月号を楽みにして下さい。

4月

日本の近代的探偵小説―特に江戸川亂歩氏に就て― / 平林初之輔

『新青年』 4月号
→ 『平林初之輔探偵小説選2』(論創社・2003年11月10日発行)

 これまでに、探偵小説を発表した日本の作家に、谷崎潤一郎、佐藤春夫、久米正雄、松本泰等の諸氏があるといふことである。その中で、私は谷崎氏の作品を一二読んだゝけである。(中略)其の他本誌の読者になじみの深い小酒井不木氏、森下雨村氏なども探偵小説を発表されてゐるといふことであるが、遺憾ながら、私はまだ読んでゐない。

5月

(タイトルなし) / 主幹

『子供の科学』 5月号

 いよゝゝ次の号では、俊夫君が、その深いゝゝ医学の知識を応用して重大なる殺人犯を探偵する大活躍の舞台が展開します。相かはらずの御愛読を願ひます。

一日一傑大衆作家列伝(五)―小酒井不木=小酒井光次―

『読売新聞』 5月6日号

6月

『呪はれの家』を読んで―小酒井博士に呈す― / 春田能為

『新青年』 6月号

参照: 翻刻テキスト「『呪はれの家』を読んで」

新刊紹介 小酒井不木『近代犯罪研究』

『読売新聞』 6月14日号

参照: 書評・新刊案内『近代犯罪研究』

7月

編輯後記

『女性』 7月号

※「謎の咬傷」は適くとして可ならざるなき不木博士傾心の創作です。『貞操礼讃』(※)と共に興趣ある読物として御覧下さい。

(※)『貞操礼讃(近代婦人研究)』は同号に掲載された、千葉亀雄によるダ井゛ツド・ピンスキイ作「ベルリヤ」の内容紹介。

8月

編輯後記

『女性』 8月号

※長谷川氏の評論、永井、内田両氏の随筆は、特に別の熱読者を多く有つことは云ふまでもありません、小酒井、米窪、正木三氏の『怪談三篇』は、文芸的素養のある人々の夏の夜ばなしの噂に上るものでせう。

新刊紹介 ウイリアムス作、小酒井不木訳『真夏の惨劇』

『太陽』 第31巻第10号 8月1日

日本探偵小説界寸評 / 國枝史郎

『読売新聞』 8月31日号
→『国枝史郎探偵小説全集 全一巻』 作品社 2005年9月15日発行

 二十八歳で博士号を得た、不木小酒井光次氏は、素晴らしい秀才といはざるを得ない。その専門は法医学、犯罪物の研究あるは将に当然といふべきであらう。最近同氏は探偵小説の創作方面にも野心を抱き、続々新作を発表してゐる犯罪物の研究は、今や本邦第一流類と真似手のない点からも、珍重すべきものではあるが、その創作に至つては、遺憾乍ら未成品である。『二人の犯人』『通夜の人々』これらの作を読んでみても、先づ感じられる欠点は、先を急いで余裕がなく、描写から来る詩味に乏しく、謎を解く鍵には間違ひはなくとも、その解き方に奇想天外がなく、矢張り学者の余技たることをともすれば思はせることである。但し市井の新聞記事から、巧に材料を選び出して、作の基調にするといふ、さういふ際物的やり方には評者は大いに賛成する。豊富な努力、有り余る語学力、立派な邸宅、美しい夫人、よいものづくめの氏ではあるが、ひとつの病弱といふ悪いものがあつて、氏を不幸に導かうとしてゐる。併し病弱であればこそ、さうやつて筆も執られるので、さうでなかつたら勅任教授か何かで、大学あたりの教壇で干涸らびて了ふに相違ない。文壇擦の毫も無い、謙遜温雅な態度の中に、一脈鬱々たる覇気があつて、人をして容易に狎れしめないのは、長袖者流でないからである。

兎角文壇の大家なるものは、お上品なことが好きである。兎もすれば下等視されやうとする、なんで探偵小説家などへ、わざゝゝ成り下つて来るものぞ。と云ふことになつて見れば、止むを得ず、新進作家なるものは、草莽の間から見付けなければならない。では厭でも小酒井不木氏、森下雨村氏、松本泰氏、かういふ人達にお願ひし、是非伯楽になつて貰ひ、驥北の野でも散歩して貰ひ、所謂千里の駒なるものを、至急目付けて貰ふより、他に手段は無ささうである。

9月

短剣集 / 蜂石生

『探偵趣味』 9月号

 小酒井博士の探偵小説は、同氏の雑文よりは面白くないものが多い。でも、九月号「新青年」の「遺伝」はよかつた。同じ九月号「苦楽」の「二人の犯人」よりは――、短かいだけでも助かる。

雑感 / 江戸川乱歩

『探偵趣味』 9月号

   ○探偵的人生
 探偵と云ふ言葉は(いやな言葉だが)実に広い意味を持つてゐる。先づ学問の研究が一種の探偵だ。推理、演繹、帰納、それらは凡て探偵小説のテクニツクでさへある。我が小酒井博士が探偵好きなのは故ある哉。
 外国語を学ぶのも一種の探偵だ。少くとも僕自身は、外国語から其意味を探偵する。小酒井氏は学生時代、字引のない外国語を探偵する興味からサンスクリツトを読まれた相だ。この気持には同感だ。(中略)
   ○最近感心した作品
 小酒井氏の「遺伝」。何とまあすばらしい材料だ。恥しながら法律にくらい僕は最後の一行まで引ぱられた。そしてギヤフンと参つた。本をとぢて暫くうたれてゐた。すると、ハツと思出したのは表題だ。なる程「遺伝」だなと、もう一つ参つた。たゞ、思出して見て少しばかりの遺憾は文章が、余りに筋を運ぶ丈けのものだといふ点だ。(後略)

会の日誌

『探偵趣味』 9月号

◇名古屋の会
 同じ(※)八月八日、名古屋では小酒井博士のお宅で同地会員の小集が催された。國枝史郎、本田緒生等七名の会員が集り膝を交へ歓談した。同地第二回の会合は九月五日同じく小酒井氏宅で開かれた。なほ、小酒井氏は『名古屋新聞』に探偵に関する文章を書いて、会の宣伝をされる筈。

(※)東京で行われた「第五回探偵趣味の会」と同じ日程、という意。

探偵作家の著書と創作

『探偵趣味』 9月号

参照: 翻刻テキスト「探偵作家の著書と創作」

探偵問答 / 國枝史郎

『探偵趣味』 9月号

(「4 お好きな探偵作家二三とその代表作。」)
4 松本泰、江戸川亂歩、本田緒生、甲賀三郎、マツカレー、ウエルシーニン、猶、小酒井博士の犯罪研究物はこれら諸氏の創作にもまして興味あり有益であることは言を待たぬ。

探偵問答 / 春日野緑

『探偵趣味』 9月号

(「4 お好きな探偵作家二三とその代表作。」)
4 小酒井不木氏(虚実の証拠)、江戸川亂歩氏(算盤が恋を語る話)と横溝正史氏(アトリヱの犯罪)

10月

(『喜多村緑郎日記』)十月廿一日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

 小酒井博士の訳したものは同じ博文館のものでも、流石にいゝところがある。「真夏の惨劇」は、ある文章に力をもつてゐる。予想もしない事が再三出てくる。然しもの事は、さうした方が却つて興味がある。その為かして今日も輝きに充ちたる秋雲がうごく、やうに、空の晴々しさを思ふ。

『心理試験』を読む / 平林初之輔

『新青年』 10月号
→ 『平林初之輔探偵小説選U』(論創社・2003年11月10日発行)

 小酒井不木氏は『心理試験』の序で、江戸川氏の作品を評して『到底外国人では描くことのできぬ東洋的な深みと色彩』とを強調してをられる。実際西欧人の作品にばかりなれた私どもには、これ等の作品に通ずる『東洋的』色彩をはつきりと感ずることができる。けれども、これまで、日本の探偵小説ばかりよんでゐた人を仮定して、その人が『心理試験』から受ける感じは、恐らく『東洋的』ではなくてモダアンといふ色彩であらう。『日本刀のニホヒ』の他に、注射針の感覚や麻酔薬のニホヒにも打たれるであらう。

 一言でこの創作集の価値をあらはすならば小酒井博士の言葉をかりるのが最も便利である。曰く、
『この創作集は日本探偵小説界の一時期を劃する尊いモニメントといふことができるであらう。』

亂歩氏の創作集 / 春田能爲

『新青年』 10月号

 私が深く欧米の作品と亂歩氏の作品に感嘆してから、超えて四五日、亂歩氏から氏の著書『心理試験』を贈られた。若輩にして無為なる私が本誌との機縁を以つてして、さきに小酒井博士より其著『近代犯罪研究』を贈られ、今又亂歩氏よりその短篇集を贈られたのは私の深く喜びとする所である。

『心理試験』は始めの予告では『二銭銅貨』と云ふ題で表はれるやうであつたが、書肆の都合でもあつたか、現在の名で刊行せられた。心理試験が氏の傑作中の傑作たる事は疑を容れず、従つて題名に選ばれた事に異存はないが、二銭銅貨が小酒井博士が序文に述べてゐる如く、氏の出世作であり、巻頭に置かれてゐる点から云つても、普通に行はれてゐるやうに、寧ろ二銭銅貨と題せらる方が、親しみ易かつたと思はれる。

九月号を読みて / 江戸川乱歩

『新青年』 10月号

第一は小酒井さんの『遺伝』同氏の材料には日頃から驚嘆してゐるのですが、今度のものなどは、実に一言もなく頭が下ります。何といふ恐しい人でせう。同氏の頭の中には、あんな材料がゴロゴロしてゐるのでせうからね。

編輯局から / 雨村生

『新青年』 10月号

◆小酒井氏の創作もだんゝゝと筆の冴えを見せて来る。豊富なる材料と蘊蓄は、今後の創作界にいよゝゝ光を放つことであらう。因に新年号には五十枚の創作を寄せらるゝ筈である。

探偵物の創作にナゼ? 傑作が出ないか / 松本泰三

『読売新聞』 10月17日
→ 『松本泰探偵小説選2』(論創社・2004年3月20日発行)

 ◆……そうです、日本人の書くものはまだまだ幼稚なものばかりでとてもお話になりません。小酒井不木さんとか馬場孤蝶さんとか、みな深く研究していられるが、いざ創作となると優れたものはない。岡本綺堂さんの『捕物帳』でも外国物を日本の時代物に翻案したものだという話だ。しいて言えば、日本では最近『心理試験』を書いた江戸川亂歩さん、唯一の探偵文芸作家と言えましょう。まだ日本は翻訳時代あるいは混沌時代とでも言いましょうか、立派な作家の出るのはこれからなんでしょう。いったい日本は探偵物のテーマに乏しいので困る。

『松本泰探偵小説選2』(論創社・2004年3月20日発行)より引用。

11月

(マイクロ・フォン)無礼講 / 春田能為

『新青年』 11月号

◆亂歩君、不木君の遺伝を推賞す。われ賛せず。この作旧刑法の条文に暗示を得て始まる。余りに作り過ぎたり。父は何者かに殺され、父の死後百日にして母亦殺さる、即ち如何と考へ物の如し。一読後、汝の父はわが父の子なり、われに兄弟なし、われと汝の関係如何と云ふ考へ物を思ひ出したり。手術は不木君独特の壇上、手術台を廻りて立つ学生と共にわれ亦結果如何と固唾を呑んだり。結末亦悽愴、好箇の小品たり。

(マイクロ・フォン)雑感 / 延原謙

『新青年』 11月号

◆小酒井氏「手術」は近来出色の作である。教授の口が真赤であつたところなど、ぞつと身慄ひを感じた。同氏のものは新青年以外に発表されたものはあまり読んでゐないが、「按摩」は少しも狙つたものが出てゐなかつたし、「遺伝」は凝つて思案に及ばぬ感があつたし、一向感心もしなかつたが、「手術」には感心した。

(マイクロ・フォン)感想と短評 / 巨勢洵一郎

『新青年』 11月号

◆小酒井さんの為人はかねゞゝ森下君などから聞いてゐたり、又同氏の頭脳――殊に複雑な事象を generalize する力は、著書などを拝見して感心してゐますが、同氏の小説には私は些しも打たれませんね。それは同氏が余りに物事を見透して終ふからではないですか、一つゝゝ噛み分けてポツリヽヽヽと書いて行く、さういふ渾然たる「味」が同氏にはない――頭のわるさがない様に思はれます。江戸川氏のいわれる如く材料の豊富には頭が下がります、羨やましく思ひます、併し要するに科学者で小説家になり切れぬ処があるのではありませんか。政治家などによく絶した小説家がある、あれは「味」を尊ぶ共通点から自然に出て来てるのでせう。私は今日まで同氏が発表された小説は大体洩れなく読んだつもりですが、うまいなと思つたのは「虚実の証拠」丈けでした。処が「遺伝」となり「手術」となるに及んで、苦労といふものは恐ろしいもので、その「味」の片鱗が、あの固苦しい材料の底にうかゞはれて来たやうですね、材料をいくらか殺してかゝるコツを体得されたやうですね。もつとうんと殺して下さい、手術とちがつてメスをもつと blunt に、精々パレットナイフ位になる様に。

(マイクロ・フォン)小酒井氏へ / エン魔大王

『新青年』 11月号

◆増大号が出たので、第一に小酒井氏の「手術」を見る。何んといふキタナイことを書くんだらう。六月号で春田氏が評した「呪はれの家」といひ、本篇といひ、一般の人士が衆人の面前で口にするをはばかるやうなことを何んの臆面もなく、乃至は得々として筆にしてゐるのは呆れるの他ない。あゝした方面のことが新聞や婦人雑誌に書かれてあり、多くの婦人がそれを平気で読んでゐるらしいのを苦苦しいことに思つてゐる私には、それがどんなに傑作であつても、この種の材料を扱つたものゝことは口にしたくない。外国の小説を読むと殺人の現場の叙景があまりに簡単なため、探偵としての読者に隔靴掻痒の感を与へ、ために全篇の興味を半ば殺がれることが度々あるが、われわれ日本人としては伝統的及び習慣的に切つたり突いたりの叙景には比較的無神経(?)であるから、その方面で詳しい叙説をやるのはよからうが、「手術」や「呪はれの家の中に書かれてあるやうな醜猥なことを筆にするのは私には同感出来ない。右小酒井氏に一言苦言を呈す。

(マイクロ・フォン)短感録 / 五岳堂

『新青年』 11月号

◆今月の苦楽に載つてゐる小酒井、江戸川、横溝三君の創作を拝見した。小酒井氏の「指紋研究家」は残念ながら批評の限りに非ずと申したい。本誌に発表せらるゝ磨きのかゝつた同氏の作品を読んでゐる目には、まるで別人の作品の感がある。無理矢理に筋をでつち上げたやうな興味を目的のこんな作品を発表せられることはこの作者のために惜しむ。

(マイクロ・フォン)萩咲く窓より / 田中早苗

『新青年』 11月号

◆小酒井不木氏の『手術』――十分の深味をもつた好い作である。手法に於ても出来るだけペンを省かうとしてゐるところに創作良心の異常な鋭さが見えてゐる。尊い心懸であると思ふ。九月号の『遺伝』も左様だつたが、作者の態度は如何にも学者らしい側目もふらぬ真率さで緊張してゐる。併しそれが余り学者になり過ぎた嫌ひがある。従つて読者はこの作によつて更に深大なる詩の世界へ潜入しようとする際、作全体のリズムから受取るパスポートに微かな不満を感じないわけには行くまい。一例をいふと、誤診の対象――といふよりもその原因であつた女患者についても、残念なことに不可欠な一二の筆触が省略されてゐる。だが左様した不備は作者の態度によりおのづから補足せらるべきものであつて、根本の問題は、作者が自から極端に抑制してゐるらしいその詩人性を已むを得ない程度だけ作の上に開放せられては何うかといふことだ。

編輯局から / B記者

『新青年』 11月号

◆毎月小酒井博士が其該博なる蘊蓄を傾倒して本誌へ執筆してゐられる「犯罪文学研究」は実に我国は勿論、欧米に於いても全く類例のない堂々たる世界的大論文であり、本誌独特の大研究記事であるから記者は特に諸君の熟読を希望する。

探偵物白波物 / 長谷川伸

『文芸春秋』 11月号

 探偵小説の作家として小酒井不木氏、江戸川亂歩氏など評判になれるはさもあるべき事のなりたる悦びなり、松本泰氏は早くより執筆され、早く単行本も出され、諸作をも発表されたれど、さのみ噂の的とならざりし、潮先のまだこぬうちに、切つて出でたる為の損耗か、まことに気の毒なり。
(後略)

12月

編輯後記

『女性』 12月号

◇余白がなくなりました。……一々云へません、白秋氏の「フリツプ・トリツプ」の自然描写は、読者の心を北に曳つけずにはおきません、不木博士の「難題」不如丘氏の「炉辺夜話」文も想も優れたもの……。

(マイクロ・フオン) / 横溝正史

『新青年』 12月号

◆近頃遺憾に思ふのは、新青年ともあらう雑誌の上に、「近頃読んだもの」欄を発見することである。殊にそれを書いて居られる諸氏が、探偵小説通として日本でも有名な人々であるには驚く。小酒井博士よ、延原謙氏よ、巨勢洵氏よ、「813」を読む前にあの犯人を知つてゐたら、興味はおそらく半減したであらうことを、考へて頂きたい。

(マイクロ・フオン)雑感 / 國枝史郎

『新青年』 12月号

 小酒井不木氏は『手術』を書いて、素人の域から飛躍した。しかし『遺伝』に至つては、学者の余技たる欠点を、露骨に現はしたものである。『犯罪文学研究』は、西洋物ほどには精彩がない。

編集局から / 一記者

『新青年』 12月号

◆川田少佐の「砲弾を潜りて」田所大佐の執筆、小酒井博士の「犯罪文学研究」は本誌の誇とする特別寄稿であつて、連載読物として小説以外に如此く読者諸君の歓迎を受けた記事は恐らく他にあるまいと思ふ。次いで特筆すべきは、諸氏の力作による創作探偵小説が著しく多く発表されたことである。中にも江戸川亂歩、小酒井不木両氏の努力は編輯同人として、又探偵小説愛読者の一人として、多大の感謝と敬意を表するものである。

◆日本探偵小説界の耆宿岡本綺堂氏が本誌のために力作「三つの聲」を寄せられたのを初め、長田幹彦、廣津和郎、平林初之輔、佐々木味津三、白井喬二氏等文壇の諸君がそれゞゝ苦心の作を寄稿或は執筆中で、一方、小酒井、江戸川、甲賀の諸君を初め、在来、本誌上にその創作を発表し来りたる諸君も、文壇諸家の発奮に刺激され、いづれも苦心努力の作品を寄せられ、全部で二十篇の創作を掲載することが出来たのは大いに意を強うする次第である。

正月の探偵雑誌から / 甲賀三郎

『読売新聞』 12月15日号

 小酒井不木氏は『恋愛曲線』(新青年)で成功して、『人工心臓』(大衆文芸)で失敗した。『恋愛曲線』は母体を離れた心臓が皿の中で擬血を送られてドキンヾヽヽと搏動すると云ふ事が如何にも神秘的で相愛し合つた男女が心臓を結びつけて恋愛曲線を残して行くと云ふ所が怪しくも亦ローマンチツクで読者を引きつける所があつたが『人工心臓』になると、鋼鉄製の心臓がモーターによつて動くといふ、魅力のない科学談になつて終つて、科学は単に機械的解決を与へるのみで、感情などを造り出す事は出来ないと云ふ主題も、目新しいものでなく、初めと終りの二三頁を覗けば作全体の結構が推定出来るやうな奥行の浅いものになつた。