那須茂竹氏が俳句をはじめられたのは大正十二年の夏でした。その時私に示された数々の句を通じて、私は氏が自然を観る眼の非凡なるを知り、若し倦むことなく進まれたならば、将来の発展はかり知るべからずと思ひました。
「熱心」といふ形容詞がありますが、その後の氏の精進振りは、熱心以上でありました。さうして私の予想したとほり、氏は過去四年間に驚くべき発展を遂げられました(。)(※1)「ちゝろ集」を繙く何人にもわかるとほり、氏の句はその気品の高いことに於てまさに無類であると思ひます。これは氏の円満なる人格の然らしむるところであると同時にまた氏の詩想の極めて豊富なることを示して居ります。恐らくこの集は昭和俳壇の大なる収穫の一つに数へらるべきものでありませう。こゝに本集の発行せらるゝ(※2)に当り僭越ながら、一文を呈して、私の歓びを表白させていたゞきました。
昭和二年十二月 小酒井不木
(※1)原文句読点なし。
(※2)原文の踊り字は「ゝ」を二つ重ねた形。
底本:『ちゝろ集』那須茂竹(名古屋印刷・昭和2年12月25日発行)
【書誌データ】 → 「小酒井不木随筆作品明細 1927(昭和2)年」
【著作リスト】 → 「雑誌別 小酒井不木著作目録(評論・随筆の部)」
(公開:2008年1月1日 最終更新:2008年1月1日)