『部落解放』 495号 解放出版社 1月10日発行
これに対して、同年に発表された小酒井不木の「直接証拠」には、ハンセン病患者の心情を描こうとした跡がうかがえ、不如丘の「執念」とは対蹠的なものとなっている。
不木は、『疑問の黒枠』の別の個所で、小窪教授に「僕はいつも考へて居るのだよ。今の科学者は、あまりにも人間の心を無視して居るとね。例へば医学者は病人の心を無視して居る。だから病は治らない」とも述べさせている。自らが医学者であると同時に、肺結核の患者でもあった小酒井不木は、医学の人間疎外を探偵小説のテーマとして追求したといえるであろう。不木の「人工心臓」には、登場人物のA博士が「自分で病気したことの無い医師は患者を治療する資格はないと痛感しました」と漏らす言葉があるが、これは不木自身の実感であろう。このことが、不木の創作姿勢が、不如丘のそれと異なった理由であった。
『怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 恋愛曲線』 小酒井不木 筑摩書房 2月6日発行
『幻の探偵雑誌10 「新青年」傑作選』 光文社 2月20日発行
『タイムスリップ森鴎外』 鯨統一郎 講談社 3月5日発行
――生命神秘論(小酒井不木)
『名古屋近代文学史研究』 第139号 3月10日発行
熱田中学が創立三十周年記念行事のひとつとして、卒業生の江戸川乱歩(第一回)谷川徹三(第二回)の両氏を招いて講演会を昭和12年5月16日、名古屋市公会堂で開催した。そのときの講演は、
谷川徹三「名古屋出身の明治の文豪二葉亭四迷について」
江戸川乱歩「探偵小説漫談」
で、その講演の速記記録が掲載されているのである。
(中略)
乱歩は名古屋と探偵小説ということをとりあげ、全国的に地方で探偵小説の盛んなところは、まず神戸で、次いで名古屋と京都であるとし、小酒井不木、井上良夫、大阪圭吉の名前をあげる。
『年報』 第二十二冊 蟹江町歴史民俗資料館 3月26日発行
○公開講座
期日 平成十三年三月四日
場所 産業文化会館 三階会議室
テーマ 「横断する知性―小酒井不木」
講師 鶴見大学非常勤講師・探偵小説評論家 長山靖生氏
参加者 四十四名
『日本近現代人物履歴事典』 東京大学出版会 5月20日発行
小酒井 不木(こさかい ふぼく)〔愛知〕
探偵作家
明23.10.8―昭4.4.1 (1890-1929)
本名光次 愛知県立一中、三高を経て 大3.12東京帝大医学部卒・大学院入学 4.1医術開業免許状下付 4.3〜5.3同副手 5.9同助手 6.12東北帝大医科大学助教授 6.12〜9.11衛生学研究のため欧米留学 9.12東北帝大教授・衛生学講座担任(病気のため未赴任) 10.9医博 11.5休職 13.5休職満期退職 12.10名古屋で作家生活へ 『小酒井不木全集』全17巻(改造社、昭5)がある。
『中日新聞』 5月25日
『国語国文研究』 第121号 北海道大学国語国文学会 7月発行
→ 改題:「「一寸法師」のスキャンダル――江戸川乱歩と新聞小説」(『日本探偵小説を読む:偏光と挑発のミステリ史』 押野武志・諸岡卓真編著 北海道大学出版会 2013年3月29日発行)
先述したように「一寸法師」は安易なキャラクター設定によって読者の欲望と結び付く。その中において特権的な悪人という点で一寸法師と三千子は同根の存在である。そしてそれは、犯罪や犯罪者を性欲と結びつける当時の通俗科学的言説とも一致している。一寸法師は一方で肉体的不具者として描かれながら、百合枝を襲う場面に見られるように、他方では性的な存在として描かれる。それは不具者=犯罪、特に性的犯罪と結びつける当時の通俗的な科学言説と重なり(17)、三千子の淫蕩性もまた、性の奔放な女性を悪女と結びつける当時の通俗性言説によりそうものである。
(17)例えば探偵小説草創期にあたって、理論家、実作者、翻訳者など多面的に活躍した小酒井不木はその一方で医学者であり、「不具と犯罪」(『新青年』大一三・八、第五巻九号)の中で「不具変質者(略)は、同時に性的エネルギーにも障害を持つて居るものであつて、即ち性欲は以上(※)に弱いか、或は反対に異常に強いものである。」とし、また一種のひがみから「かくて不具者は猜疑的であり、また悪性である。ことに適当な教育を受けない場合には、かゝる危険性は愈よ顕著である。」というように、不具者と犯罪や性欲を結びつけている。
(※)原文ママ。「異常」の誤植。
『郷土文化』 57巻1号 8月15日発行
『江戸川乱歩探偵小説蔵書目録 幻影の蔵』 新保博久・山前譲編著 東京書籍 10月10日発行
『新訂 作家・小説家人名事典』 日外アソシエーツ 10月25日発行
小酒井不木
こざかい・ふぼく
探偵小説家 医学者 (生)明治23年10月8日 (没)昭和4年4月1日 (出)愛知県海部郡蟹江町 本名=小酒井光次 (学)東京帝国大学医学部(大正3年)卒 医学博士(大正10年) (歴)血清学の研究医で東北帝大教授に招かれロンドン、パリに留学したが、肺結核で倒れる。任地に赴かないまま、大正11年に退職。静養中作家生活に入り、豊富な医学知識をもとに、医学随筆のほか、「人工心臓」「疑問の黒枠」「大雷雨の殺人」など探偵小説を発表。勃興期の文壇に刺激を与えた。また、海外作家の紹介者としても知られ、ドーセ「スミルノ博士の日記」「夜の冒険」、チェスタトン「孔雀の樹」などを訳した。その業績は「小酒井不木全集」(全17巻・改造社)にまとめられている。一方、那須茂竹に俳句の指導を受け、自宅で枯(※)華句会を開催。また土師清二らとも句作した。句集に「不木句集」がある。50年その蔵書約2万冊が名古屋市に寄贈され、“蓬左文庫”が出来た。
(※)原文ママ。「拈」の間違い。
『りりばーす』 Vol.2 北海道大学大学院文学研究科日本文化論研究室 10月31日発行
『べんせいライブラリー ミステリーセレクション 魔の怪』 勉誠出版 11月15日発行
『怪獣はなぜ日本を襲うのか?』 長山靖生 筑摩書房 11月25日発行
→ 『犯罪文学研究』 小酒井不木 国書刊行会 1991年9月30日発行