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自序

 本書は、著者が過去三ヶ年間に、病と戦ひつゝ書いた随筆を集めたものであつて、たゞ便宜上、西洋医談と不木軒随筆とに分けたに過ぎない。いづれも、曾て、医学雑誌や通俗雑誌に発表されたもので、文中の事項がところゞゝゝ(※1)重複して居るのはそのためである。
 西洋医談とはいふものの、主として英国の医談である。また医談とはいふものの、その実著者の追想記である。即ち著者は、医史や医人伝を書くにしても、史実の穿鑿を目的とせず、自分の感想を主とした。それ故若しこの書が、別に、多少なりとも英国医学を紹介することが出来たならば、それは著者の望外の幸である。
 著者の畏敬する先輩長尾藻城氏が、本書のために懇篤なる序文を寄せて、本書に光彩を添へて下さつたこと、及び、本書の出版に際し、同氏と克誠堂主今井甚太郎氏が、一方ならぬ厚志を賜はつたことは、著者の感謝措く能はざる所である。

 大正十三年六月
 不木軒主人

(※1)原文の踊り字は「ぐ」。

底本:『西洋医談』(克誠堂書店・大正12年6月15日発行)

【書誌データ】 → 「小酒井不木随筆作品明細 1924(大正13)年」
【著作リスト】 → 「雑誌別 小酒井不木著作目録(評論・随筆の部)」

(リニューアル公開:2017年9月29日 最終更新:2017年9月29日)