病龍のふらせし雨は其水腥しと伝へらるるが、牛と交りてなほ麒麟を生む力がないでもない。
角は鹿に、頭は駝に、眼は鬼に、頂は蛇に、腹は蜃に、鱗は魚に、爪は鷹に、掌は虎に、耳は牛に似て居るといふやうな珍妙な形を見せておいて、大なる時は宇宙に■■(しょうよう)(※1)し、小なる時は拳石の中にも隠れるなどと威張つて、これで世の逆鱗に触れなかつたら、それこそ八才の龍女が成仏したよりもなほ幸である。
大正四年夏初
東京本郷弥生町僑居に於て
不木生識
(※1)原文の漢字は行人偏に「尚」と、行人偏に「羊」。
底本:『生命神秘論』(洛陽堂・大正4年6月25日発行)
【書誌データ】 → 「小酒井不木随筆作品明細 1915(大正4)年」
【著作リスト】 → 「雑誌別 小酒井不木著作目録(評論・随筆の部)」
(公開:2017年9月29日 最終更新:2017年9月29日)