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『不惑(まどはず)

小酒井不木

 孔子は四十にして惑はずと言つた。ために、われも不惑(まどはず)の齢(とし)に達したと称して喜ぶものがある。何ぞ図らん、四十は実に人間の最も惑ひ易い年であるものを。見よ、恋に不徳に、醜名を天下に流すは、多くは四十以後でないか。さすれば不惑(まどはず)とは、たゞ年と共に賢なる人にのみ言ひ得ることである。だから、ヤングも言ふ、四十にして愚(おろか)なる者は真実に愚(おろか)なりと。

底本:『朝日』昭和4年4月号

【書誌データ】 → 「小酒井不木随筆作品明細 1929(昭和4)年」
【著作リスト】 → 「雑誌別 小酒井不木著作目録(評論・随筆の部)」

(リニューアル公開:2009年11月7日 最終更新:2009年11月7日)