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『友』

小酒井不木

『多病故人疎(たびやうゆゑひとうとし)』と支那の詩人は詠んだ。『病め然らば友の有無を判ぜん』とスペインの諺は教へる。病まずとも、心を静めてわれと周囲とを見つめるとき、しみゞゝ(※1)友の少なきに驚く(。)(※2)『断金』と言ひ『刎頸』と言ふも、すべては『稀有』の別名である。ソクラテスがある夏小さい家を建てた。『あなたのやうな偉いお方が、どうしてこんな小さな家を?』と隣人がきくと、『この小さな家にさへ、若し一ぱいになるだけの友があつたら‥‥』と、哲人は寂しい顔をした。

(※1)原文の踊り字は「ぐ」。
(※2)原文句読点なし。

底本:『朝日』昭和4年2月号

【書誌データ】 → 「小酒井不木随筆作品明細 1929(昭和4)年」
【著作リスト】 → 「雑誌別 小酒井不木著作目録(評論・随筆の部)」

(リニューアル公開:2009年11月7日 最終更新:2009年11月7日)