『新文化』 第2580号 1月13日 5面
本書の面白さは、日本に探偵小説という新ジャンルが根づき、時を同じくして乱歩が時代の寵児となってゆく様が、活写されている点にある。自分になかなか自信がもてずクヨクヨ考える乱歩と、最初からその才能を疑わず、「奇抜なことを思いつくあなたの頭は、構造が違う」などと鷹揚に励まし続ける不木……相反する個性がうまく噛み合い、不木の支援を心の拠りどころとした乱歩は、次々に後世に残る傑作を生み出していく。
「アンダーグラウンド・ブック・カフェ」チラシ 東京古書会館 1月16日(日)〜18日(火)
「作家・江戸川乱歩誕生の秘密に迫る!」
日時:1月16日(日)午後3時〜午後5時
場所:東京古書会館2階情報コーナー
ゲスト:浜田雄介(成蹊大学教授)・阿部崇(小酒井不木研究家)・末永昭二(大衆文学研究家)・本多正一(『凶鳥の黒影』監修者)をはじめとする愉快な面々。スペシャルゲストあり(予定)。
江戸川乱歩はいかにして作家となったのか? 154通の往復書簡が照らし出す乱歩像、小酒井不木の魅力……。二人の巨人の交流が日本のミステリをつくった。ミステリファンよ、集まれ!
人形作家、石塚公昭の新作「屋根裏の乱歩」、会場にて初公開!
乱歩ファン必見の力作です。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
我が家では、小酒井さんはいつも特別な人だった。
小酒井さんちの千早ちゃんと治ちゃんと、そしてお母さんがよく家に来ていて、祖父の還暦祝いの大きなパーティなんかでも、大人たちの小言を尻目に一緒にテーブルの下に潜ったりして遊んでいた。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
主人と初めてお宅に伺った時から、四半世紀にわたる長いおつき合いが私の青春時代でした。本を読みますと不木も身近に感じられてありがたく、出版を心より感謝しております。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
例えば、大正十四年四月九日付の書簡を見よ。ここから日本の探偵小説が始まったのだと感じるのは私だけではあるまい。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
全ては、彼が望んだ通りの〈乱歩〉像を残そうとした結果。けれど本書には、そうした韜晦にぼやかされる以前の姿が息づいています。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
※『図書新聞』第二七〇七号より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
11月某日 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集『子不語の夢』を読む。『白昼夢』に出てくる屍蝋(水に浸かった死体が石鹸状になる)だが、死体はそう簡単に屍蝋化しないようである。中学生の私でもおかしいとは思った。
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※ウェブサイト Kimiaki Ishizuka's Homepage「身辺雑記」より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
不木と乱歩の人間そのものが行間から見えてきます。不木は何の他意もない素直な気持ちで、乱歩を盛り立てようとするのですが、その不木を乱歩は次第にうっとうしく感じ始める。そしてその気持ちもすごくよく判る。He is not he wasでデヴュー当時の庇護はもはや必要ないのに、不木はその変化が分からないのですね。とはいえ深い部分での盟友意識は不変なのであり、不木の死後の乱歩の行動は、まさに礼を尽くしたもので乱歩の人間性を現しています。
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※ウェブサイト ヘリコニア談話室より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
本文注の詳しさにたじろぐ。
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※ウェブサイト 均一小僧の古本購入日誌より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
不木は早すぎる晩年を生きている。乱歩は三十代にしてまだ小説家に専念すべきか否か、きわめて現代的なモラトリアムの悩みを抱いている。年齢の離れた二人の男の書簡は、新しい時代の率直な文体でつづられてはいるものの、礼節と敬愛がにじみ、どこかなまめかしい。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
「乱歩と不木の書簡が本になる」と聞いたときに、はたしてそれだけで場がもつのか? という疑問がわきましたが、なるほどこういう方法があったのかと感心しました。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
ふうん、妖怪を語らずってやつだな。そういうのを語るなアろくでもねえお仲間だってわけだ。この、表紙がいいね。うん。いいよ。
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※編者・浜田雄介聞き書き
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
※『週刊大衆』二〇〇四年十二月二十七日号より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
脚注はかなり不木びいきなのですが、それもそのはず、本書を通読すればきっと不木ファンが増えることでしょう。これだけ学があって病身だと性格がねじ曲がったりするものですが、裏表のないまさに快男児といった印象で、よろずに扱いにくい乱歩とは対照的。
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※ウェブサイト Weird Worldより抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
乱歩・不木、ないしは『新青年』や探偵小説に特に関心がなくても、近代小説史の大きなうねり、メディア史の中での作家・編輯者の動向が見えて興味をそそります。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
乱歩、不木の探偵小説への情熱を受け継いでゆきたい、と思わずにはいられません。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
一読、日本の探偵小説の草創期に立ち会っているとおぼしき臨場感がある。乱歩と不木、ふたりの巨人が楽しそうに文通していることに、八十年の時を隔てて眩暈すら覚えてしまう。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
値段を見てびっくりですが、増刷されたのにもびっくりです。腰巻の書簡引用部分はなんだかできすぎというか、こういう往復書簡だからこそ一冊にまとめる価値があるというアピールにぴたりですね。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『子不語の夢』は、乱歩と不木が互いに宛てた書簡という稀有な宝石を、見事に加工してみせた例で、編者の腕前をいくら称賛しても称賛しすぎるということはない。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
ほぼ八十年前からの二人のやりとりの熱は不木逝去の昭和四年でおわる。それから七十五年、今次昭和の大戦をもくぐりぬけ、よくぞ散逸もせず二人の書簡は相寄る魂のごとく一冊となってここにある。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
書簡から看取される乱歩・不木の人格的な大きさにも心を洗われるような気がするが、本書の読みどころはなんといっても下欄に記されたおびただしい脚注である。
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※ウェブサイト プヒプヒ日記より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
近頃、これほどスリリングな読書体験は珍しい。ふたりのやりとりが、乱歩の習作発表からプロ作家へと転出する間の機微を克明に炙りだす。そして書簡は、その間、ふたりの関係に微妙な変化が生ずる様をも、赤裸々に暴きだす。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『子不語の夢』には圧倒されました。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
乱歩と不木のやり取りに、時にはツッコミを入れるような脚注は実に楽しく、これら脚注は無声映画に命を吹き込む弁士のようである。
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あくまでも乱歩の才能を引き立てようとする不木に事務的な返事しか書かぬ後年の乱歩に、もうすぐ不木は死んじゃうのにそれはないだろうとはらはらしたり、耽綺社の会に行かずに岩田準一と旅行しているのはどうしたものか、でもこの旅行のおかげで『孤島の鬼』があるのだよなあ、とやきもきしたり、あるいは探偵小説の活性化の背景となった大阪、東京、名古屋のモダン都市化の違いを私は楽しんだが、読者の興味によって注釈も多様な働きをすることだろう。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
書簡を読み進むうちに、乱歩と不木の親交が葛藤に変わっていく。その過程をたどるのがとてもスリリングだった。
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自治体の事業でありながら、乱歩・不木を追いかけてきた在野の研究者やサイト主宰者に編纂を一任している徹底した「適材適所」も、この種の出版物では例がないだろう。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
2004.12.25 ようやく『子不語の夢 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』を熟読。乱歩と不木の往復書簡も意義深いけれど、脚注が素晴らしく学識に富んでいる。ここ数年の乱歩研究の中でも教えられるところが一番多かった本だ。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
先生も、小酒井先生との交流をよもやこんなかたちでまとめてくださる方が出現しようとは思いもよらなかったと思います。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
ミステリー・ファンにはもちろんのこと、広く、黄金期の怪奇幻想文学シーンに関心を寄せる向きにとっても必読の一級資料といえよう。
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※オンライン書店bk1「東雅夫の幻妖ブックブログ」より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
※『SPA!』二〇〇四年十二月七日号より抜粋
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
情熱あふれる脚注によって、乱歩と不木の姿が、書簡からより一層リアルに立ちのぼってくるようでした。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
作品と苦闘する乱歩の超人的なストイックぶり、それを献身的に励まし続ける不木の好漢ぶり。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
小酒井不木があんな若さで亡くなったとは知りませんでした。何とはなしに老大家という印象があったものですから……。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
江戸川乱歩が暗号好きであったのは周知の通りである。その乱歩と不木の往復書簡は、ふたつの意味でまさに暗号と言えるだろう。ひとつに読み下すこと。さらにひとつ、字間行間に含まれた意味を拾い出すこと。
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『『子不語の夢』に捧げる』 皓星社 1月16日発行
『読売新聞』 1月19日夕刊
次に、中相作・本多正一監修、浜田雄介編『子不語の夢――江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』(乱歩蔵びらき委員会発行・皓星社発売)。デビューしたての乱歩が専業作家になれるかどうか先輩不木に問い、保証されたというのは知られた話だが、その作家誕生の現場、後の交友の記録がここにある。自伝『探偵小説四十年』のそれとは異なる生々しい乱歩像を読み取ることも可能で、また不木の人柄には魅了されるだろう。何より村上裕徳による脚注の詳細さと深い洞察に仰天、これ自体探偵小説を読むようであった。
『週刊読書人』 1月21日(金)
本書からは、乱歩デビュー前後の、すなわち探偵小説黎明期の、熱気あふれる空気や、平林初之輔などに行き詰まりを指摘され、スランプに陥る乱歩とそれを慰める不木の交情、書けなくなった乱歩を気遣って作った合作グループ「耽奇社」の顛末などをうかがうことができ、歴史の現場に立ち会っている気分になれて、興奮を隠せない。
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これまで研究者は、乱歩の自伝『探偵小説四十年』をほとんど唯一の拠り所として、黎明期の探偵小説史を認識してきたわけだが、いうまでもなく『四十年』は、乱歩の視点によって整理された歴史である。乱歩はそれなりに誠実だったとはいえ、やはり自分に都合の悪い部分は、無意識のうちに記憶から欠落するようなこともあっただろう。乱歩の死角に入ってしまった事実を掘り起こすことが、部分的にとはいえ、可能になった意味は大きい。本書によって、探偵小説史と作家像の再構築が盛んになるに違いない。
『朝日新聞』 1月26日(水)
本書は三重県の松尾芭蕉生誕三百六十年を記念した事業の一環として企画され、また不木の出身地である海部郡蟹江町の生誕碑建立記念出版でもある。地域の文化事業の連携という意味でも稀有な試みだが、何よりも内容の充実ぶりに刮目させられた。本文に付されたマニアックなまでの脚注や、書簡のほぼ全点を高解像度の写真付きで収録したCD-ROMなど、今後の文学関係の資料出版のモデルとなるような出来栄えである。
『文芸』 第44巻第1号 河出書房新社 2月1日発行
創作探偵小説勃興期における先駆者二人の真摯なやり取り、専業作家乱歩の誕生秘話、大衆文学合作組合耽綺社の内実、乱歩の芸術的短篇より通俗長篇への変貌のヒントなど、読みどころが満載。読者は世の中にウンザリしていた青年平井太郎の築いたパノラマ島ならぬ“江戸川乱歩”の秘密を垣間見ることが出来るはずです。
『芸術新潮』 2月号
不木の激励にもかかわらず、昭和2年には「暫く小説の方を休んで考へて見たい」と妻子を残し1年半にも及ぶ放浪の旅に出た。「パノラマ島奇談」の連載を中断したまま、「浮浪者のように」さまよう旅先で「これからどこへ向ふか当てもありません」という悲痛な嘆きを漏らす乱歩の肉声が生々しい。
『遊歩人』 2月号
我が国のミステリ草創期、実作の代表者は江戸川乱歩であり、理論面でのそれは小酒井不木だった。『子不語の夢』は両者の出会いから、不木の死による別れまでの全貌がわかる稀有な往復書簡集。
土曜サロン 第146回 3月19日
『本の雑誌』 3月号(第30巻3号) 本の雑誌社 3月1日発行
そして、トリを飾ったのは小酒井不木との往復書簡集『子不語の夢』(乱歩蔵びらき委員会発行/皓星社発売)である。
小酒井家の屋根裏で発見された乱歩の手紙は、成田山の書道博物館で見る機会があったが、乱歩邸に製本保存されていた不木からの手紙と併せて、ふたりの往復書簡がここに浜田雄介氏らの努力によって翻刻されたのである。この往復書簡は、乱歩の習作発表からプロ作家へと転出する間の機微を克明に炙りだし、同時に、その間、ふたりの関係に微妙な変化が生ずる様をも、赤裸々に暴きだしている。まさに第一級の資料と言えよう。
『年報』 第二十五冊 蟹江町歴史民俗資料館 3月26日発行
○文化財研修会
平成十六年一月二十四日〜二月二十二日開催の「小酒井不木の世界」期間中に関連事業として行った。
期日 平成十六年二月二十二日
場所 蟹江町中央公民館分館 三階会議室
テーマ 「インターネットで読む小酒井不木」
講師 小酒井不木研究家・HP「奈落の井戸」主宰 阿部崇氏
参加者 八十四名
『年報』 第二十五冊 蟹江町歴史民俗資料館 3月26日発行
『新刊展望』 No.713 日本出版販売株式会社 4月1日発行
日本の探偵小説草創期に大きな役割を果たした江戸川乱歩と小酒井不木のこうした交流ぶりを手紙からたどることができる貴重な資料。
『社団法人日本推理作家協会会報』 5月号 No.677 5月1日発行
乱歩と中井英夫、作家としての誠実さに通ずるものがあり、いまだに読み継がれているもとになっているように思われます。このように、本多さんは穏やかに語られました。
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[出席者]芦辺拓、加納一朗、北原尚彦、草川隆、竹内博、直井明、長谷川卓也
オブザーバー・芦田直子、石井春生、大橋博之、谷澤亮司、垂野創一郎、中西芙美子、吉野敏弘、沢田安史(文責)
『公明新聞』 5月3日
乱歩が専業作家として立つまでのドキュメント、二人の創作秘話、当時の大衆文学界の交流の様子等々、往事の肉声が甦り、時代の証言としても貴重だが、一読、不木の温容と誠実が印象深い。
『毎日新聞』 6月3日(金)
(写真・キャプション)名張市出身の江戸川乱歩(左)。デビューして間もない1925年夏、名古屋に住んでいた先輩作家、小酒井不木と
『第二回「小酒井不木賞」俳句コンテスト 俳句抄 折々草句集』 小酒井不木俳句コンテスト実行委員会 6月19日発行
日本近代文学会 6月例会 6月25日
6月例会
日時: 6月25日(土)13:30〜
場所: 駒澤大学 一号館204教場 (駒澤キャンパス)
研究発表
朝岡浩史 近代心中物語と断末魔――『今戸心中』他――
田代早矢人 「秋声史」の再形成――「順子もの」・ゴシップ・批評――
成田大典 本格探偵小説形成期における読者参加――「五階の窓」を中心に――
倉田容子 中上健次『日輪の翼』における「仮母」/非「仮母」としての老婆たち――差異・差別へのまなざしをめぐって――
『オール読物』 60巻7号 文藝春秋 7月1日発行
(前略)
『子不語の夢』は、書簡集として構成するよりも、むしろめちゃめちゃ面白い脚注を前面に出して、手紙は引用的な従属物にした方が、より評論として完成したのではないかという論議になりました(もっとも、編者の皆さんが一歩下がったのは、大乱歩と小酒井不木への敬愛ゆえで、とてもよくわかるのですが)。
『オール読物』 60巻7号 文藝春秋 7月1日発行
(前略)
『子不語の夢』については、書簡が主体となっているが、実は脚注の方が数倍面白い、という論議が交わされた。同感である。
『オール読物』 60巻7号 文藝春秋 7月1日発行
(前略)
『子不語の夢』は注釈が非常に面白かった。注釈でこんなに愉しんだのは生まれて初めてである。この部分だけで一冊の本になっていたら受賞したと思う。他の選考委員から、誰に賞を渡すのか分からない作品という意見が出て、受賞は見送られた。
『高知県立文学館ニュース 藤並の森』 Vol.29 高知県立文学館 7月発行
【LINK】
また、探偵小説の陰の功労者として、科学者岡崎直喜氏と医学者井上重喜氏。ともに佐川町出身ですが、前者は、同僚の甲賀三郎氏と大下宇陀児氏の処女作を「新青年」に紹介しました。後者は、探偵小説の草創期に雨村が小酒井不木とは一体どういう人物かと照会した人で、小酒井不木の同窓生。不木氏もまた、乱歩の第一作「二銭銅貨」を絶賛しました。
『国語国文研究』 第128号 北海道大学国語国文学会 8月発行
平凡社の六月四日の広告では「各巻何れも世界的名篇!! 訳者は斯界の権威揃ひ!!」と大きく宣伝されている。確かに広告の訳者名を見ると、乱歩、横溝正史、小酒井不木など探偵小説を牽引的に引っ張っていた名前を見付けることが出来る。だが先に見た乱歩や中島の述懐によると、平凡社の翻訳は著名人の名前を貸しただけで、実際は下請けの代訳者を起用していたということになる。では実状はどうだったのであろうか。(中略)
平凡社版全集の訳者として名前を挙げられている一五人のうち、博文館と重なっている人物は江戸川乱歩、延原謙、横溝正史、小酒井不木、田中早苗、平林初之輔の六人であるが、これらの全てが『新青年』上において探偵小説の指導的立場にいた人物である。またこの六人の内、二つの全集で作家と訳者が共通するものはコナン・ドイルの延原謙、ドゥーゼの小酒井不木、ヴァン・ダインの平林初之輔であるが、この三人はいずれも『新青年』で作品を積極的に翻訳していた人物である。(中略)
こうして見てゆくと、平凡社が喧伝する「斯界の権威」の訳者とはいずれも、実は『新青年』と深い繋がりを持っていることがわかる。つまり平凡社の言う「権威」とは博文館の『新青年』に拠るところが大きいのである。
『国枝史郎探偵小説全集 全一巻』 末國善己・編 作品社 9月15日第1刷発行
→初出:『読売新聞』 1925(大正14)年8月31日
『大阪人』 第59巻 11月号 大阪都市協会 11月1日発行
大正十三年(一九二四)十一月二十六日、江戸川乱歩は書き上がったばかりの原稿をかたわらに、便箋にペンを走らせていた。相手は名古屋在住の作家にして医学者・小酒井不木(本名・光次、一八九〇―一九二九)、早くから欧米の探偵小説に親しみ、自らも医学・犯罪がらみの随筆に手を染め、当時としては探偵小説理解の第一人者であった。
そんな彼を見込んで、「新青年」編集長・森下雨村は、大阪在住の未知の新人から送られてきた「二銭銅貨」「一枚の切符」の閲読を頼み、その面白さに瞠目した不木は推薦文「『二銭銅貨』を読む」を寄せて、彼のデビューを飾った。これをきっかけに四歳差の二作家に文通が始まり、それは不木の死まで続いた。
それから世紀を越えた二〇〇一年、千葉県の成田山書道美術館で開かれた展覧会に乱歩から不木に宛てた書簡約三十通が出品され、このことを知った乱歩研究者の熱意と所有者・岡田富朗氏らの好意によって、これらと乱歩邸にて製本・保存されてきた不木から乱歩への書簡百二十通をドッキングし、翻刻出版するプロジェクトが進められた。
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この中には、世に出て間もなくの乱歩のナマの声がとどめられているが、とりわけ重大なのが冒頭に挙げた乱歩書簡だ。というのも、前回とりあげた「D坂の殺人事件」で名探偵明智小五郎を誕生させたばかりの彼は、重大な相談を不木にもちかけていたのだ――彼の大阪時代、いや、作家人生における最も重要な決断についての相談を。
『岡山大学大学院文化科学研究科紀要』 第20号 岡山大学 11月発行
論文の事に関しては第一回の様に論文を行列させると人が飽きますから、巧みに処々へ織り込めば幾つあつても差支ないと思ひます。殊に「狂人の暗黒時代」とか「胎児の夢」及「脳髄論」などはどうしても削つては駄目です。会話で平たく書くよりも寧ろ説明にして学理的な所を見せた方が可いのです。小酒井博士の恋愛曲線などでも兎の心臓をリンゲル氏液に入れて働かせると働くと云ふ事は夙に私は鍼医から聞いて居りましたが博士が勿体振つて書くと新発明かなんぞの様に世間では驚いて居ります。あれなどから比べると此三論文の方は私には耳新しく面白いのです(。)
『時代小説盛衰史』 大村彦次郎 筑摩書房 11月10日発行
この会の発足は最初、仕事の息抜きに世間話にでも興じようか、という趣旨だったが、第一回の会合日が大正十四年七月二十一日だったことから、「二十一日会」と命名された。だが、一同血気盛んであった。無駄話にもすぐ厭きが来て、折柄の大衆文芸勃興の機運に乗じ、このさい自分たちの同人雑誌を出したらどうか、ということで、衆議一決した。雑誌名は『大衆文藝』。同人には当初のメンバーに加えて、あと数人を勧誘することにした。大阪在住の江戸川乱歩、土師清二、名古屋の小酒井不木、国枝史郎の四人に案内状が出された。
『名作で読む推理小説史 ペン先の殺意 文芸ミステリー傑作選』 編者:ミステリー文学資料館 光文社 11月20日初版1刷発行
乱歩登場以前の探偵小説のルーツ探しは、小酒井不木なども試みているが(「明治の探偵小説及び大衆物」『日本文学講座』第七巻、新潮社、一九二七)、たとえば、日本最初の創作探偵小説といわれる黒岩涙香の「無惨」(一八八九)が「発見」されるのは、柳田泉「随筆探偵小説史稿」(「探偵春秋」一九三六年一二月〜三七年八月)まで待たねばならない。その「無惨」にわずかに遅れて、同じ年に、幸田露伴が「是はゝゝ」と「あやしやな」を発表している。後者は外国に舞台を取っているが、まったくの創作で、シャーロック・ホームズ・スタイルを自家薬籠中のものにした秀作といえる。いわゆる純文芸作家の創作としては、露伴のものが最初期のものといえるかもしれない。
『維納の殺人容疑者』 佐藤春夫 講談社文芸文庫 12月10日発行
江戸川乱歩が作家として独立するにあたって、小酒井不木に「心理試験」(『新青年』一九二五年二月号)を読んでもらって、判断を仰いだというのはよく知られている。
『名古屋近代文学史研究』 第154号 名古屋近代文学史研究会 12月10日発行
平成十七年初夏、古書即売会のカタログ中に『不木句集』を見つけ注文。幸い入手できた。
(中略)
八月中旬、不木を追って海部郡蟹江町歴史民俗資料館を訪ねた。詳細は後日に記したい。
『朝日新聞』 12月28日(水) 夕刊
代わりに記念となる出版物を挙げるなら、小酒井不木と江戸川乱歩の往復書簡集『子不語の夢』(皓星社)だろう。三重県出身の乱歩、そして愛知県蟹江町出身の不木は、大正時代末期の探偵小説黎明期に互いに励ましあい議論を重ねた盟友だった。二人の出身地の文化事業の連携企画として昨冬刊行された本書は、一級の研究者が贅沢に工夫を盛り込んだ結果、学術的な資料としても理想に近い出来栄えとなった。活字やCD=ROMに収録された図版から、若い二人の意気込みや苦悩が生々しく浮かび上がった。