参考文献/資料集 1995(平成7)年

(公開:2006年1月23日 最終更新:2009年1月26日)
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2月

前説 / 山前譲

『大雷雨夜の殺人』 小酒井不木 春陽堂書店 2月25日発行

講説 / 山前譲

『大雷雨夜の殺人』 小酒井不木 春陽堂書店 2月25日発行

3月

 

『惜別の宴』 横田順彌 徳間書店 3月15日発行

江戸川乱歩――闘わない巨人 / 新保博久

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行

 さて少年探偵小説も、乱歩が書き始めたころはまさにライバル不在の世界だった。当時の少年小説の主流は、『鞍馬天狗』『怪傑黒頭巾』といった時代物、山中峯太郎の軍事冒険物、あるいは佐々木邦らの明朗ユーモア物などだったのにほかならない。少年探偵団シリーズ以前にも、「森下雨村、小酒井不木両氏が、少年探偵小説をよく書いた。そして、それらはいずれも好評を博していたのだが、両氏とも私の『二十面相』のような思い切った非現実を書かなかったので、その大人らしさが、私のものほど子供心を捉えなかったようである。そういう風に、昔から少年探偵小説がなかったわけではないが、私の『二十面相』ものは、自讃すれば、画期的な歓迎を受けたといえるであろう」と、乱歩は先達を立てているが、実質的には寥々たる分野に鍬を入れたわけだ。

「大衆文芸」と「新青年」 / 谷口基

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行

 さて、大正十五年以後にも、「新青年」と「大衆文芸」とを結ぶ軌道上を、惑星の如く往還する作家たちの姿が鮮やかにみとめられる。その筆頭は小酒井不木。彼の代表作となる二作品「恋愛曲線」と「人工心臓」は大正十五年一月、それぞれ「新青年」、「大衆文芸」に同時発表されており、爾来、「三つの痣」「肉腫」「死の接吻」「印象」「メヂューサの首」など、医学・生理学的素養によって築かれた作品世界に人間精神の暗黒を暴き出す不木一流の残酷劇は、二つの誌面を交互に戦慄させた。

横溝正史と「新青年」の編集者たち / 浜田雄介

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行

(前略)親分肌の雨村のもとにやがて吉田甲子太郎、田中早苗、妹尾韶夫、延原謙らが参集し、翻訳陣が整うことで「新青年」は編集スタイルを確立する。馬場孤蝶や井上十吉、小酒井不木ら学者・文学者の啓蒙的評論を集めて探偵小説のステイタスを高め、また懸賞小説募集で西田政治、横溝、水谷準らを発掘し、やがて大正十二年の江戸川乱歩登場を契機に、一気に探偵小説創作時代を現出するのである。

雑誌「新青年」の作家たちとその世界 / 川崎賢子

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行

 いっぽう、犯罪科学、心理学、病理学といった自然科学的知と文芸との交通につくしたのが小酒井不木だ。小酒井は東北帝大医学部助教授の身分で欧米留学中に喀血し、帰国後教壇に復帰することがかなわず、かぎられた生命を「新青年」を中心とする文筆生活にかけた。なかでも犯罪科学評論の領域では、犯罪捜査に活用される先端的な医学知識から、近代科学の枠組みとは別の流れを構成する秘教的、錬金術的あるいは東洋的な知にいたるはばひろい目配りがなされ、後進におおきな影響をあたえた。古今東西、科学から文芸にいたる百科全書ふうのペダントリイにみちた小酒井のエッセイは、脱近代的な、つまり近代主義の手本としての西欧とは異なるもうひとつの西欧の、知的宇宙の紹介につとめた澁澤龍彦の仕事を、ある意味で、さきどりする位置を占めている。

海野十三と日本SFのパイオニアたち / 長山靖生

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行

 これに対して、大正末期から科学小説の執筆をはじめた小酒井不木や海野十三の場合、いささか事情が異なってくる。周知のように小酒井不木は生理学、海野十三は電気工学を専攻する科学者であった。彼らは、科学の進歩に反して、一向に向上することのない人間の品性に対する懐疑から、人類が智の最終段階まで未だ遥かに隔たった存在であることを自覚していたし、進歩し過ぎた科学への漠然たる恐怖を感じる世代に属していた。より正確に言うなら、自らを律する道徳規範を失った人類の欲望が、進歩した科学技術と結びついたとき、何か破滅的な結末が人類の未来に待っているのではないかという思いこそが、彼らをして作家として立つ方向に向かわせたのである。

「新青年」―異才と鬼才の系譜 / 山下武

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行
 → 『書斎の憂愁』 山下武 日本古書通信社 2009年1月15日発行

 この雑誌から送り出された探偵作家は、江戸川乱歩、小酒井不木、夢野久作、小栗虫太郎、海野十三、横溝正史、甲賀三郎、大下宇陀児、水谷準、渡辺啓助、木々高太郎をはじめ、その余の群小作家に至ってはほとんど枚挙にいとまがないほど。

江戸川乱歩と昭和のミステリージャンル / 浜田雄介

『横溝正史と「新青年」の作家たち』 世田谷文学館 3月30日発行

 論理的謎解きと怪奇幻想に揺れる乱歩を軸に、医学的恐怖に戦慄させる不木、科学にこだわる甲賀、大衆社会と軽快に戯れる横溝、透明な抒情にひたる水谷、都会の恐怖を描く城、狂気の描写に凄みを見せる夢野、と、レッテルを貼れば直ちにそのレッテルが無効になってしまうかのような躍動的な個性が、「新青年」誌上に踊った。昭和に入ってからは渡辺温や海野十三、浜尾四郎、渡辺啓助がデビューを飾る。昭和改元の時点で角田喜久雄の二十歳から国枝史郎の三十九歳まで、誰もが若く、探偵小説は無限の可能性を秘めていた。乱歩、平林初之輔、森下雨村、甲賀、国枝、小酒井による「五階の窓」を皮切りに、繰り返される連作が相互の個性をぶつけあう遊びであったなら、「探偵趣味の会」編集の『創作探偵小説選集』や改造社『日本探偵小説全集』は、発光する個性を集成して時代に刻みつける営みだったと言えるだろう。

 小酒井、森下、甲賀といった年長世代の論者たちは、一様に探偵小説の方向転換を提唱し始める。その主張の平均値を探るならば――乱歩と「新青年」を中心とした運動は、確かに探偵小説を芸術の一ジャンルとして一般に認知させたが、作家たちは芸術性をめざすあまりに探偵小説本来の面白味である通俗性を失ってしまった。(中略)とすれば、今後の方向としては、通俗長編しかないではないか、そもそも探偵小説本来の面白さは長編にこそあるのだ――というようなものだった。