『地下室』 126号 5月発行
→ 『探偵小説談林』 長谷部史親 六興出版 1988年7月25日発行
岡戸武平の人となりについては、鮎川哲也氏の『幻の探偵作家を求めて』に詳しいので、ここではごく簡単に述べるにとどめる。名古屋に生れ、大阪の時事新報にて新聞記者生活を送っていたが、胸を病んで退職し、それが縁となって、小酒井不木の著作助手とでもいうような立場で、かつての記者としての経験が活かされることになった。しかしながら、不木が昭和四年に若くして急逝したため、これは長くは続かない。不木の葬儀や、それに伴う様々な些事を滞りなく済ませた後、改造社の『小酒井不木全集』の編集のために上京し、翌昭和五年まで改造社から俸給を受けてそれに専従した。当初全八巻の予定であったのが、売れ行き好調のため増巻を重ねて全十七巻でようやく完結したのは周知の通りである。
『少年小説大系第7巻 少年探偵小説集』 中島河太郎編 三一書房 6月30日発行
『少年小説大系第7巻 少年探偵小説集』 中島河太郎編 三一書房 6月30日発行
『名古屋近代文学史研究』 第76号 11月10日発行
川名山のお宅を訪問したのは昭和四十九年九月二十五日。井手蕉雨の軸物などをひろげながら、独居また愉しと語られておられた。欄間には氏の師小酒井不木の墨跡なる扁額。いわく「子不語」――昭和戊辰の文字のあつたところ昭和三年の揮毫か。
「不木が江戸川乱歩に揮毫を頼まれたとき、同じ文字を二枚かいたのでしたが、そのうちのよく書けた方を貰つてしまつたのです……。」
氏はほぼ半世紀の昔日を回想してこのように語られた。いかにも作家らしい机辺のたたずまい、そして奥座敷にすえられたベツドが印象的ではあつた。