参考文献/資料集 1923(大正12)年

(公開:2007年2月13日 最終更新:2021年6月7日)
インデックスに戻る

1月

編輯局から

『新青年』 1月号

◆最後に興味中心の方面より見て、『スミルノ博士の日記』は恐らく、読者諸君の熱狂的歓迎を受くべきを疑はない。記者は三百円懸賞の当選者果して幾人あるかを思ふて、北叟笑む。

懸賞金三百円 探偵小説「スミルノ博士の日記」に附す

『新青年』 1月増刊号

 本号より連載する探偵小説、瑞典の作家ドーゼの作「スミルノ博士の日記」に懸賞を附す。本号を読まれたる読者は知らるゝ如く、女優アスタ・ヅールは突如その自邸に於て何者かのために射殺され、第一の嫌疑者として、現場附近にあつたボルス夫人が逮捕された。スミルノ博士は検事に伴はれて現場に臨検する。そこへ名探偵レオ・カリングは現れ、スミルノ博士と共に明徹錐の如き炯眼をもつて、不可思議なる事件の解剖をすゝめてゆく。しかも事件は歩一歩迷宮に入り、容易に犯人の推定を許さゞるものがある。本篇の深甚なる興味は即ちその点にあり、読者諸君にこの一大懸賞を提供する所以もそこにある。諸君は左の条件により、法医学者スミルノ博士及び名探偵レオ・カリングと共に、逸早く真犯人を逮捕されよ。
 ◆懸賞規定
 一、懸賞金 参百円。当選者六十名に五円図書券を贈呈
 二、用紙 官製端書。表に懸賞回答と朱書すること
 三、回答法 犯人「何某」と明記し、何故に何某を犯人と推定したるかその理由を附記すること。この附記なきものは採らず。
 四、締切 大正十二年二月十五日
 五、発表 三月発行四月号誌上

2月

誌友倶楽部 読後の感 / 伊吹山

『新青年』 2月号

(前略)「毒及び毒殺」を拝読して小酒井先生の博学には驚き入つた。(後略)

編輯局から

『新青年』 2月号

◆本号に予告したとほり、次号から小酒井博士の「殺人論」を掲載する。蓋し犯罪文学並に犯罪科学に亘る近来の大論文、大研究である。
◆「スミルノ博士の日記」は本号でいよゝゝ佳境に入つた。アスタ・ヅール殺しの真犯人は果して何者か? 本号に於て犯人を逮捕し得ずんば、恐らく次号に於ても、これが逮捕は至難であらう。諸君の燃犀なる観察と推理は果して那辺にまで及び得るであらうか?

予告 殺人論

『新青年』 2月号

殺人論 医学博士 小酒井不木

「毒及び毒殺の研究」に於て、犯罪科学並に犯罪文学に関するその蘊蓄の一端を洩されたる小酒井博士は、次号より更に「殺人論」なる大論文を本誌上に発表せらるゝことゝなつた。博士は諸君の熟知せらるゝ如く科学、文学は素より現代文化の各方面に精通せらるゝ人、本誌が海外の高級探偵小説の紹介に努力しつゝあるを賛し、犯罪科学に関するその研究を本誌上に発表せらるゝもの、特に次号より連載する「殺人論」の一篇は博士近来の大研究、優に一冊の書となるべきものである。博士より書信の一節に曰く、
  殺人の動機、殺人方法、犯行及屍体の隠匿法、殺人鑑定等に関する歴史文学より、死刑、拷問法、乃至は法医学の全部に亘り、指紋毛髪の鑑定にまで及びたいと思ひます。而してこれだけで現在の犯罪科学の一般、法医学の一般、探偵小説の一般が興味本位で読者に解るやうにしたいと考へてゐます。云々
 以て内容の一般を知るべきである。幸ひに愛読を乞ふ!!

3月

誌友倶楽部 読後の感 / 横浜 鳴宮世之助

『新青年』 3月号

▼「スミルノ博士の日記」は益々疑雲に包まれて来た。増刊号第十二章に於て……俄然、名探偵レオカリングは真犯人の名を認めた。名刺をザンデルゾン検事に与へた。果して何と書かれてあつたか? 僕にも分る様な気がする。実に興味深々だ。

誌友倶楽部 読後の感 / 東京 K生

『新青年』 3月号

▼一月号は面白かつた。(中略)壁の穴も益々面白くなつて来た。スミルノ博士の日記と共に次号が待遠しい。(後略)

誌友倶楽部 読後の感 / 伊吹山

『新青年』 3月号

▼新年号と云ひ増刊と云ひ僕は内容の立派さに一驚を喫した。(中略)又増刊号の方は家出、スミルノ博士の日記。手長のマロン。呪はれた王座。侠山賊ドン・クー(、)死の飛行。沙漠の船など実に面白かつた。(後略)

予告 夜の冒険

『新青年』 3月号

夜の冒険 瑞典 ドウーゼ 鳥井零水訳

 「スミルノ博士の日記」に於て、読者諸君を熱狂し驚倒せしめたる瑞典の作家ドウーゼの新作「夜の冒険」、独逸より来る! 構想の奇、結構の妙、「スミルノ博士」に勝ること数段!! 波瀾重畳、怪奇あり、冒険あり、真に近来稀に見るの傑作。直ちに鳥井氏を煩して翻訳に着手。完成と共に近く本誌上に連載すべし。乞ふ鶴首して其日を待たれんことを!!

編輯局から

『新青年』 3月号

■本号から愈々小酒井博士の「殺人論」を掲載する。予告にも述べたとほり、犯罪科学並に犯罪文学に亘る博士近来の大論文であつて、恐らく在来発表された斯種(このしゆ)の研究中最も注目すべきものであらう。敢て諸君の精読を煩はす所以である。

4月

誌友倶楽部 感想 / 西大久保 JY生

『新青年』 4月号

▼三月号の本誌の記事の充実は実に素敵だつた。スミルノ博士の日記と云ひ、英米仏五人集(、)S大統領の死の外に田所氏や後藤市長の「青年と自治」など中々面白く拝読した。殊に小酒井博士の「殺人論」は少からざる興味を以て再三再四精読した。(後略)

編輯局から / 一記者

『新青年』 4月号

■新載「夜の冒険」は十万読者諸君の熱狂的歓迎を期待する大読物である。懸賞は一層諸君の感興を深からしめんが為の試みであつて、真面目な愛読者諸子には素より問題とするに足らないであらう。しかし敢て云ふ。六問全部を完全に解決し得る炯眼の素人探偵(アマチユアデテクチブ)果して本誌読者中にあり得るや否や?

5月

誌友倶楽部 批評と感想 / 神戸 探偵王/小僧

『新青年』 5月号

▼『スミルノ博士の日記』では第一回の初めを読んだだけで狂人が博士であることが判つたが『夜の冒険』では四月号を読んだだけで一寸判りかねる。或はイワングラーネと云ふ男が犯人かも知れぬ。暗中の物凄い笑ひ声は狂人グラーネに相違ない。私の探偵眼は第一回(四月号)で犯人をグラーネ狂人と睨んだ。五月六月と私はこの私の探偵眼が正しいか否かを試験して行かう――。(神戸 探偵王)

▽果して狂人グラーネが犯人か知ら? スミルノ博士とは違つて、いかに探偵王でも今度はさう簡単には目星はつくまいよ(、)その実僕も知らんがね、何しろ記者は原稿を誰にも=画家にも全部は見せないんだから。(小僧)

誌友倶楽部 批評と感想 / 茨城 天囚生/記者

『新青年』 5月号

▼小酒井不木氏の『殺人論』は私は全心の熱血を傾倒して再読三読した(。)博士の深遠なる理論と該切なる例証は日々新聞に見る三面記事の殺傷事件の真相を把握するの鍵であり、延いては亦探偵小説の忠実なる理解者である。(茨城 天囚生)

▽小酒井博士の論文は賛辞を寄せられる方が随分ありますが一々載せられませぬ故左様御承知下さい。何しろあれだけの研究は外国にだつてありません。どうかしつかりと御精読下さい。(記者)

6月

編輯後記 / 一記者

『新青年』 6月号

◆一方、興味方面に於ては、長篇「夜の冒険」はいよゝゝ佳境に入らんとしつゝある。記者が当初に云つたとほり、本編の殺人犯人だけは、諸君の炯眼を以てしても、さう易々と逮捕は出来得まいと信ずる。玄人筋の愛読者諸君からも、「意外に犯人の目星が附け難い」との通信が頻々として舞ひ込む。しかし、記者がもし探偵であつたなら、もう犯人だけは捉まへてゐるんだに――と申したい。再読、三読、宜敷く眼光を紙背に徹せしむべしだ。如何に用意周到なる犯人と雖も、彼が人間である以上、如何(※1)かに不用意な尻尾を出してゐる筈である。

(※1)原文ママ。

7月

次号予告 モリス・ルヴエル短篇集

『新青年』 7月号

(前略)犯罪や怪奇文学の素人研究家として聞えた名優アーヴイングなども、彼の不思議な独創力(オリヂナリチ)に惚れこんで、熱心なルヴエル贔屓の一人であつたし、日本でも、慧眼な小酒井博士は、夙にルヴエルの真価を認め、「自分も探偵小説を創作するときは是非この手法で行きたい」と激賞された。(後略)

小酒井博士の新著 科学より観たる犯罪と探偵を紹介す / 森下雨村

『新青年』 7月号

参照: 翻刻ライブラリ(同時代資料編)

批評と紹介 小酒井不木『犯罪と探偵』

『読売新聞』 7月4日号

犯罪と探偵(医学博士 小酒井不木著) (前略)著者が我邦有数の探偵小説通である事は『新青年』其他諸雑誌に依り明白過ぎる程著名で其等既載の研究五十余篇を本書に纏めてある文芸玩賞上にも法医学上にも絶好の新参考

畑違ひからペンを執る―自然科学者の群―(上) / 檳榔子

『読売新聞』 7月30日号

畑違ひからペンを執る―自然科学者の群―(下) /檳榔子

『読売新聞』 7月31日号

8月

編輯局から / 神部生

『新青年』 8月号

◆殊に増刊には『夜の冒険』の懸賞〆切の部分が出る。今や興味の絶頂に達してゐるこれが当選者の有無は編輯局一同の斉しく興味を以て待ちつゝあるところである

(広告)「科学より観たる犯罪と探偵」

『新青年』 8月号

最新刊 医学博士 小酒井不木先生著
科学より観たる犯罪と探偵

本書は、科学と文学と歴史とから、犯罪と探偵とを考察したもので、著者はその艶麗の筆を以て犯罪科学と犯罪文学との融和をはかり、豊富な例証によつて犯罪と人生との関係を説き、併せて、史上に名高い犯罪事件を縦横に解剖批判して居る。
探偵小説の愛読者は勿論、犯罪と探偵に興味を持つ人に欠くべからざる参考書である。

四六版洋装三百五十頁
定価壱円四拾銭 税六銭
博文館 東京日本橋本石町 振替東京二四〇番

(書評広告)「科学より観たる犯罪と探偵」

『新青年』 8月増刊号

科学より観たる犯罪と探偵(小酒井博士著)

 七月号誌上で予告しておいた小酒井博士の新著が、いよゝゝ出版された。その大半は一度雑誌で読んだものであるが、一冊の書となつて改めて読み直してみると、犯罪科学及び犯罪文学の領域に於ける博士の広くて深い研究が、今更の様に覗はれて、全く知識と興味の果てしれぬ珍しい書である。珍しい書といふ言葉を用ひたが、事実、外国の何処を捜しても、博士のこの新著に較ぶべき書物は絶対にないと断言して差支へないと信ずる。もし何人か篤学の士があつて、この書を英独いづれになりと翻訳したならば、恐らく外国の文壇並に学界は、博士の該博なる知識と研究に驚嘆するであらう。記者は斯の如き書が日本に生れたことを慶賀し、探偵小説の愛読者にあらざる人人――愛読者には敢て申すまでもない――が、この書を一読して、探偵小説に対する興味を喚起せられんことを切望する。小酒井博士は探偵小説の研究が、推理判断力の増進に裨益するところ大なりとして、これが研究を学界其他各方面に宣伝せんことを希望せられてゐる。その意味に於て特にこの書を推薦する次第である。(一円四十銭、博文館)

編輯を終へて / 雨村生

『新青年』 8月増刊号

◆愛読者諸君は定めしこの増刊号の出るのを首を長くして待つてゐられることであらう。特に長編「夜の冒険」の愛読者諸君に於てさうであらう。
◆懸賞を附したといふことも、無論その一因ではあらうが、事実、この小説ほど近来読者諸君の興味を集めた読物はない。或る熱心な読者の如きは、次号が待ち切れないで、挿画を描いてゐる松野氏のところへ、続稿を原稿で読ましてくれと云つて来たさうである。記者の知人である某氏などはその同僚と競争で犯人の捜索に努めてゐる。また某省に勤めてゐる某学士は原文で読みたいと云つて独逸に原書を註文したといふ。とに角、素晴らしい人気を呼んだものだと記者自身も驚いてゐる。
◆が、いよゝゝ本号で懸賞応募を〆切ることゝなつた。恐らく応募回答はこゝ旬日の間に山の如く集るであらう。しかし、断つておくが、名探偵レオ・カリングでさへあれだけ苦心惨憺してゐる事件である。余程慎重に、眼光紙背に徹する底の注意力を以て、かゝらなければ真犯人の逮捕は困難であらう。諸君の中からたつた一人でもいい、レオ・カリングに鼻を明かせる素人探偵が出て欲しい。

新刊紹介 犯罪と探偵(医学博士小酒井不木著)

『太陽』 第29巻第10号 8月1日

 

9月

編輯局から / 神部生

『新青年』 9月号

◆四月号から連載して諸君の非常なる好評を博した五百円懸賞附探偵小説「夜の冒険」は愈愈次号を以て完結する事になつた。意外なる犯人に呆然たる諸君も多いであらう。編輯局には諸君の応募が文字通り積んで山をなしてゐる。数人の係りは汗だくで厳密にこれが選定に忙殺されてゐる。予告の通り、当選者の氏名は次号に於て完結と共に掲載する。

11月

新青年増刊 探偵小説傑作集 予告

『新青年』 11月号

心理学的探偵法
(博士が、本誌のため特に病躯をおして執筆されたる興味津々たる研究)