故小酒井博士が多能多趣味の人であられたことは世界周知のことであります。
俳句にも趣味を持たれ多くの名句を詠まれました。
こゝに蒐めましたのはその一部であります。
端的に率直に自己を表現する文学としては俳句ほど適切なものはありません。
十七字の中に作者の人生感(※1)、社会観、宇宙観を盛ることが出来るからです。
この集を読むことによつて私は故博士の俤を新しく思ひ出すことが出来ました。
それは高朗にして飄逸であつた俤であります。
親しかりし人の遺稿を読むことの寂しさ悲しさを身に湿めながら、一方この句集を読むことによつて、故博士の俤をふたたびまのあたりに思ひ浮かべ、懐しさを覚える者は私一人だけではあるまいと思はれます。
手向句
鶴立ちて後に抜毛もなかりけり
國枝史郎
昭和四年五月
(※1)原文ママ。
底本:『不木句集』(私家版・昭和4年5月刊行)
【書誌データ】 → 「小酒井不木随筆作品明細 1929(昭和4)年」
【著作リスト】 → 「雑誌別 小酒井不木著作目録(評論・随筆の部)」
(リニューアル公開:2008年1月1日 最終更新:2008年1月1日)