肩の凝らない犯罪探偵談を集めた積りであるが、読む人にとつては案外かたくるしい思ひをさせるかもしれない。若しさうとすれば、それは物語の選び方が悪いといふよりも、筆者の筆の力が足らぬためであらう。犯罪探偵談を通じて人生の一角をのぞく………などゝいふと頗る大袈裟であるから、たゞ探偵趣味を持つ人の消閑の友となり得たならば幸甚であると申して置くに止める。 大正十四年十一月 不木軒主人
底本:『趣味の探偵談』(黎明社・大正14年11月)