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『少年科学探偵』(文苑閣)序文

 

 本書に収めた六篇の探偵小説は、雑誌『子供の科学』に連載されたもので、尋常五六年生から中学二三年生までぐらゐの少年諸君の読物として書いたのであります。
 現代は科学の世の中でありまして、科学知識がなくては、人は一日もたのしく暮すことが出来ません。然し、科学知識を得るには、何よりも先づ科学の面白さを知らねばならぬのでありまして、その科学の面白さを知つてもらふために、私はこの小説を書いたのであります。
 次に科学知識なるものは、書物を読むと同時に、よく『考へる』ことによつて余計に得られるものであります。ですから、ドイツの諺にも、『読むことによつて人は多くを得るが、考へることによつて人はより多くを得る』とあります。然るに、探偵小説は、読む小説であると同時に読んで考へる小説であります。それ故、私は私の小説を読まれる少年諸君に、物ごとを考へる習慣をつけてもらひたいと思つて書いたのであります。
 少年科学探偵塚原俊夫君の出る物語はこれでおしまひではありません。私は今後追々発表して行くつもりですから、皆さん、どうかいつまでも愛読して下さい。
 終りに本書の出版に関して、少なからぬ尽力をして下さつた神田書房主と友人深野滋君、及び、雑誌に発表した当時から、づつと挿画を書いて下さつて、本書にも美しい筆を揮つて下さつた森田ひさし画伯に、甚深の謝意を表します。

 大正十五年十二月 小酒井不木

 

底本:『少年科学探偵』(文苑閣・大正15年12月)