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「小伝」

小酒井不木

(『現代大衆文学全集第七巻 小酒井不木集』)

 

 明治二十三年十月、愛知県蟹江町に生る。愛知県立第一中学校(名古屋)、第三高等学校を経て、大正三年十二月東京帝大医学部を卒業、直ちに大学院に入り、生理学、血清学を専攻す。大正六年十二月、衛生学研究のため海外留学生を命ぜられ、米、英、仏三ヶ国に滞在し、大正九年十一月帰朝、翌月東北大学教授に任ぜられたるも、病のため任地に赴くを得ず、郷里に静養す。十年九月医学博士の学位を受け、翌年遂に退職す。十二年十月現住所に移るまで、幾度か痼疾のために死に瀕したるも、幸ひに回復して今日に至る。
 病中の徒然に探偵小説を愛読す。傍ら犯罪学に興味を持ち、『近代犯罪研究』『犯罪文学研究』等、数種の著述あり。探偵小説の創作を試みたるは大正十四年の春にして、爾来三ヶ年間に『死の接吻』、『恋愛曲線』、『稀有の犯罪』、『疑問の黒枠』等を著はす。著書合計二十余種、その中、肺病療養法を説ける『闘病術』は反響最も多し。
 創作も創作なれど、生物学研究は断念し難く、いづれ機を見て取りかゝらんとす。家族は妻と一男一女のみ。

 

底本:「小伝」(『現代大衆文学全集第七巻小酒井不木集』平凡社・昭和3年3月1日発行)