『世界大衆文学全集 月報』 第十五号 改造社 昭和4年6月3日発行
澎湃たる大衆文芸時代の潮流に立ちてその方向を指標せし巨人不木小酒井博士の足跡を見よ!!
彼は人も知る医学界の世界的泰斗たるの身を以て比類なき才気と絶大の精力とを我が成長期なる大衆文芸運動の上に傾けた。剴博なる知識と鋭犀なる観察、殊
にその科学者的推理方法の特異さを以て彼が所謂探偵物創作の上に示した天分は洵に古今独歩と言はねばならない。今や彼一朝忽然として逝いて、我大衆文芸の
成長と発展とは、偉大なる生命の源泉と未来への光明を失つたかの感がある。
『大衆文芸は何処へ行く』此の問に答ふるは只々本全集八巻の繙読玩味を措いて他にない事を信ずる。