この時代の女性読者は怖い。作家や評論家が十言を費やして表現していた不木の作品評を一言で完結させている。しかし乱歩と不木の作風の差を「芸術家ではない」から、と断定されちゃ、不木もたまらんなあ。それを言っちゃあお終いよ。 | |
小酒井さんは学者で芸術家ではないのですからあたしはそのつもりで読んでゐます。たとへ文章は宇野浩式に冗漫でも(尤もずつと華さはあるけれど)江戸川さんは小説家ですから主観が燃えてゐます感情が旋律となつてうづまきます。江戸川さんのはよんで考へさせられますが小酒井さんのは感じがうけ入れられません。 | 「マイクロフォン」
(「新青年」大正15年7月号) |
そう? | |
(前略)五月号―小酒井氏の「死の接吻」は少し通俗的に堕してはゐまいか?(後略) | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年9月号) |
「大衆文芸」だけに講談系が強いからねえ。乱歩は当時スランプでよく「原稿がもらえませんでした」と編集後記に泣きが入っているし。で、編集後記での休載通知が他にも多いのが人気作家の國枝史郎。彼のは病気による休載ですけどね。 | |
(前略)小酒井氏の探偵物が願ひたい。(中略)おなじ名古屋は大衆作家國枝氏、小酒井氏を持ちながら兩氏共に御病氣とは小生事眞に心細く感じます。 | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年9月号) |
……(再読中)……あってもいいじゃんか。しかもこの二行のあるなしと、研究室にいた方が、という意見とは全く関係ないな。ちょっと理不尽な意見だよ。 | |
(前略)小酒井氏はやはり研究室に居られた方がいゝと思ひました。殊に「狂女と犬」の最後二行はなくもがなでせう。(後略) | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年9月号) |
これはたぶん7月号の「狂女と犬」についての感想だと思いますが……悪趣味というのはともかく、「常套手段」つうのは何を指して言っているのかよくわかりませんな。作為性が気になるのでしょうか? それについてはごもっとも、という他ありません。不木の場合。 | |
(前略)小酒井氏のはおちが惡趣味だ。戀愛曲線何々に見る常套手段がチト鼻につく。(後略) | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年11月号) |
正直者。 | |
(前略)九月號拜見してゐますと背中迄冷たくなりさうなのはメヂユーサの首が第一で他のは又私等には批評出來ないよいところがあつてたまらなく嬉しくなりました。(後略) | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年11月号) |
これは「メデューサの首」が探偵小説ではない、といっているのではなく、こういう面白い探偵小説をこれからもお願い、といっているのです、たぶん、おそらく……。 | |
(前略)九月號の小酒井博士の「メジユーサの首」土師清二氏の「鎌倉三代物語」は一番面白く讀みました。小酒井博士の御作は、いつでも面白く感じます、探偵小説もどしどし御願い致します。(後略) | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年11月号) |
そうざんすの。随分馴れ馴れしい投稿ざんす。でも愛情に溢れているのでよし。 | |
(前略)小酒井氏の名古屋新聞における漫文は拜見いたしましてよ。ずゐ分面白うござんした。あれで氏の健康が追々快方に向きつゝある事をひそかに察してよろこんでますの。どうぞ健闘されん事を!!(後略) | 「大衆文芸往来」
(「大衆文芸」大正15年11月号) |