『江戸川乱歩年譜集成』 編集:中相作 藍峯社 4月1日発行
大正12年(1923)3月
11日、森下雨村に手紙、《「新青年」四月号御恵贈に与り拝見仕候。小生のギコチナイ暗号小説意外の御厚遇を得奉万謝候。小酒井先生の御好意ある御批評亦大いに感謝致居候。四月号創作四篇拝見それぞれ感心仕候え共応募作「頭の悪い男」最も軽妙にして探偵小説の体を為せるものかと存じひたすら感服仕居候。この調子なら将来共大いに楽観すべきかとも存候》と伝える。
『トーキングヘッズ叢書(TH Series)No.95 SWEET POISON〜甘美な毒』 アトリエサード 8月10日発行
小酒井はその知識と経験を生かして、犯罪学研究を行った。そして特に注目したのが毒薬である。ミステリーには殺人がつきものだが、その方法の一つとして広く知られるのが毒殺。ミステリーのみならず、世界の文学や歴史では毒薬と毒殺が多々登場することは、例えばシェイクスピアをみてもわかるだろう。ミステリーのみならず作家には医師も多いが、それを生かして毒薬と犯罪学を研究した人物は、日本では小酒井不木くらいだろう。
こう見てくると、小酒井不木という作家は、探偵小説の科学的要素に惹かれていることがよくわかる。そして、医師としての生理学・血清学研究と推理小説研究という両面から、特に毒薬にとりつかれた作家といっても過言ではないだろう。
『CRITICA』 Vol.18 探偵小説研究会 8月12日発行
嵩平 小酒井不木はどうでしょう。
廣澤 「恋愛曲線」や「闘争」あたりがアンソロジーの定番ですよね。
嵩平 あと「痴人の復讐」とか。
市川 あれ、小酒井不木って乱歩より前じゃなくて?
横井 後ですよ。評論とかは先に書いてましたけど、創作は乱歩より後。ただ少年探偵・塚原俊夫シリーズは、もしかすると乱歩より先に書いていたかもしれませんが。
市川 知らない……。
横井 傑作ですよ。あれだけ残したいくらい。まあそれはいいとして、短編だと他に「死体蝋燭」とかあたりも昔のアンソロジーに採られてました。どこが面白いのかよくわかりませんが。
嵩平 「闘争」で良い気がします。
『CRITICA』 Vol.18 探偵小説研究会 8月12日発行
「二銭銅貨」が掲載された際に、同作品が掲載に値するかどうかの判断を請われた小酒井不木が「『二銭銅貨』を読む」という感想文を寄せている。そこで「日本にも外国の知名の作家の塁を摩すべき探偵小説家のあることに、自分は限りない喜びを感じた」と書いた小酒井は、翌年の暮れに少年探偵小説「紅色ダイヤ」を発表したのを皮切りに、一九二五年から盛んに創作探偵小説を発表するようになる。今日、代表作と目されているのは「人工心臓」「恋愛曲線」などのSF的アイデアを盛り込んだ作品で、探偵小説としての代表作は遺作となった「闘争」が、やはり妥当なところであろうか。個人的には少年探偵・塚原俊夫シリーズに思い入れがある。