参考文献/資料集 2019(平成31/令和1)年

(公開:2019年5月22日 最終更新:2020年3月17日)
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5月

解説 / 山前譲

『森下雨村 小酒井不木 ミステリー・レガシー』 編者:ミステリー文学資料館 光文社 5月20日発行

 一九二三年に「二銭銅貨」でデビューした江戸川乱歩が、日本の探偵小説界に大きな変化をもたらしたのは間違いない。と同時に、その短編の掲載誌である「新青年」の編集長だった森下雨村と、雨村の依頼で「二銭銅貨」にたいして興奮した推薦文を寄せた小酒井不木を忘れてはならない。ふたりの地ならしがあったからこそ、乱歩のデビューとその後の活躍があったのだ。「ミステリー・レガシー」シリーズの三冊目となる本書には、創作探偵小説の黎明期に大きな業績を遺したその二作家にスポットライトを当てる。

8月

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『モダニズム・ミステリの時代』 長山靖生 河出書房新社 8月30日発行

 

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『モダニズム・ミステリ傑作選』 長山靖生 河出書房新社 8月30日発行

 小酒井不木の「鼻に基く殺人」は同誌の創刊号に発表された作品である。不木は昭和四年四月一日に既に亡くなっており、これは不木の絶筆である。「鼻に基く殺人」は、ある少年が何となく鼻が気に入らないという理由で、男を事故に見せかけて殺したという手記を書いており、それを姉が垣間見てしまった顛末を描いた物語だ。事件の真実をめぐる部分は探偵小説だが、姉弟の生活環境の描写にはモダニズム的な自由さ、豊かさが感じられる。

11月

戦前、唯一の映画化『一寸法師』江戸川乱歩の昭和二年 / 湯浅篤志

『映画論叢 52』 国書刊行会 11月15日初版第1刷発行

 直木はその後、小酒井不木原作「疑問の黒枠」を石井漠主演で監督をしていて、ある程度撮影をしたようだが、完成はしなかった。
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 すなわち、この時期の「探偵小説」の飽和が、作品の質を落とすことにもつながるが、そうならないためにも質がよく、なおかつ面白みのある作品を考えていたのだった。雨村はその例として『新青年』昭和二年一月号から連載される小酒井不木の「疑問の黒枠」(昭和二年八月号まで連載)に希望を抱いていた。
 ところが、である。そうした願いはうまく叶わず、「疑問の黒枠」も読者にはそれほど受けなかった。さらに、そうした機運に便乗した直木三十五が「疑問の黒枠」の映画化に手を出し、失敗したのは前述した通りである。斯界の状況の質が変わってきたのである。探偵小説の作品数は増えているのにもかかわらず、質の上昇が伴わず、昭和二年の始め頃には、本格探偵小説の不振が言われ始めてきたのであった。

12月

(研究発表)愛知医科大学所蔵「小酒井文庫」の分析 / 福武亨(愛知医科大学総合学術情報センター)

特定非営利活動法人日本医学図書館協会 第4回JMLA学術集会 TKP渋谷カンファレンスセンター 12月6日

 NDC第二次区分までを用いたところ,「小酒井文庫」は45項目まで分けることができ,小酒井不木の博学さが伺えた。そのうち,英米文学[93]が100冊(24%)と最も多く,医学[49]が77冊(18%),ドイツ文学[94]が47冊(11%),法律[32]が27冊(6%),フランス文学[95]が21冊(5%)と続く。
 文学に分類された多くが探偵小説であり,例えば,コナン・ドイルやエドガー・アラン・ポー等が並ぶ。また,法律については,刑法,刑事法[326]に該当するものが中心であり,犯罪学,犯罪心理学に関するものである。さらに医学の77冊は,NLMCを用いて細分化した。医学史[WZ]が17冊(22%),精神医学[WM]が11冊(14%),一般医学[W]が9冊(12%),公衆衛生[WA]が7冊(9%),微生物学,免疫学[QW]が6冊(8%)と続いている。
 以上のように,小酒井不木の思想形成において,「文学」と「医学」が大きな影響を与えていたという裏付けが蔵書分析からできる。