参考文献/資料集 1955(昭和30)年

(公開:2014年11月20日 最終更新:2014年11月20日)
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8月

古畑博士とヅーゼの因縁 / 江戸川乱歩

『犯罪学雑誌』 8月号

 ヅーゼを訳された小酒井博士は、私が探偵小説を書き出した初期に色々お世話になつた先輩であるが、この小酒井さんが現日本犯罪学会々長の古畑種基博士と、学生時代からの親友であつた。大正末期、小酒井さんは「新青年」誌上に、犯罪史と探偵小説に関する随筆を盛んに書きはじめられたが、丁度その頃古畑博士がドイツに留学中で、親友のことだから絶えず手紙の往復があり、ある時の手紙に、小酒井さんはベルリンの本屋に出ている面白そうな探偵小説の本を送つてくれないかという意味のことを書かれた。古畑博士はそれを読んで、本屋の店頭に行かれるとき、探偵小説の珍らしい新刊書に気をつけておられたのだが、そうして見つかつたのがヅーゼの数冊のドイツ語訳の本であつた。古畑さんはその本を買つて、名古屋在住の小酒井さんに送られた。小酒井さんがこれを読んで見ると、大変面白いので、すぐに翻訳する気になり、先ず「スミルノ博士の日記」を「新青年」に連載したところ、非常な好評を博したので、引きつづいて「夜の冒険」を翻訳連載せられた。この好評に乗つて、ヅーゼを、ヅーゼをという注文が来るものだから、小酒井さんは、右の2長篇のほかにも、「生ける宝冠」「スペードのキング」「四枚のクラブ一」「夜の謎」「毒蛇の秘密」などを次々と翻訳して、翻訳探偵叢書に入れ、また新聞や雑誌に連載せられたのである。