『医学及医政』 10月号
▲才子多病美人薄命も古ひが、東北大学医学部教授の候補者小酒井光次は留学中宿痾に悩まされ目下帰朝の途に在ると云ふが又手病症は気遣はしいものであると、東大生理の永井教授が小頭を傾けてゐた。小酒井は非常な勤勉家の上に当代稀に見る常識の発達した学者気質の人であるばかりでなく、友情に厚く能く人の面倒を見ることは彼を知る者の間に有名である、海陸無事帰朝を祈ると同時に故山の山川に接して一日も速に回春の期に接せんことを中心から祈って置く、今や何れの方面を見ても人材の欠乏せる時代、小酒井の如き人物は学問上から云ふも人格上から云ふも杏林界の花形である。どうか夜半の嵐に散らし度くないものである。