彼はポケツトから、有朋堂文庫の『醒睡笑』を取り出した……彼はいつも探偵に必要なのは機智と諧謔とであると考へ、この書をポケツトからはなしたことがないのである(「通夜の人々」)
中学時代の水彩画(『小酒井不木全集 第十巻』) |
親愛なるA君! 君の一代の盛典を祝するために、僕は今、僕の心からなる記念品として、「恋愛曲線」なるものを送らうとして居る……(「恋愛曲線」)
……きつと蟹が居るんだよ、蟹が万年青の芽をつまむにちがひない……(「いたづら蟹」)
大学の制帽を冠れる著者(『小酒井不木全集 第十四巻』) |
……いくら固く口を噤んでゐる犯罪者でも、その犯罪者の、本当の急所を抉るやうな言葉を最も適当な時機にたつた一言いへば、きつと自白するものだよ(「呪はれの家」)
……例の葡萄酒を出して貰はう……(「謎の咬傷」)
どうです、……今晩は、人間の共食ひを話題としようではありませんか(「手術」)
……絶対に処罰されない殺人の最も理想的な方法は何でせうか? ……それは殺さうと思ふ人間に自殺させることだと思ひます……(「痴人の復讐」)
……女にしろ、男にしろ、一しよに寝たものが、目がさめた時、異形の化物に代つて居たら、果してどんな気持がするだらうか……(「暴風雨の夜」)
五本の指、掌、前膊、上膊、肩胛骨、その肩胛骨から発した肉腫が頭となつて、全体が恰も一種の生物の死体でゝもあるかのやうに、血に塗れて横たはつて居た……(「肉腫」)
……一口にいへば、私が法医学を選んだのは、私のサヂズム的な心を満足せしめる為だつたのです……(「三つの痣」)
岳父鶴見樂次郎氏の肖像(著者の写生)(『小酒井不木全集 第十七巻』) |
内科の教室に居ました時分から、私は沢山の患者の臨終に出逢つて、安死術といふものをしみじみ考へたのであります……(「安死術」)
……偶然といふものは、実は原因を見つけることの出来ぬ程複雑な「必然」と見做すのが至当であつて、怪談や因果噺の中にあらはれる偶然を、私はむしろ、この「複雑雜な必然」として解釈したいと思ふのである……(「血の盃」)
恋が時として一種の遊戯であることは、新石器時代でも現代でも、又、ペルーでも日本でも変りません(「桐の花」)
紐育にて(立てるは著者・椅子に凭れるは中野俊三氏・大正七年撮影)(『小酒井不木全集 第十巻』) |
詠草の一部(大正九年巴里の旅宿にて)/ヱールリツヒの肖像(大正九年仏国アルカシヨン静養中描く)(『小酒井不木全集 第五巻』) |
私はこれで一度死んだ人間になつたことがありますよ……(「手紙の詭計」)
……若し犯人が文字通りの殺人芸術家であつて、故意に無頓着な殺人を行つたとしたならば、それこそ難中の至難事件となるのです……(「外務大臣の死」)
……この藍色の鬼の絵を壁にかけて朝夕ながめて居たならば、きつと生れる子は、鬼のやうな怖しい顔をして居るか、
或は少くとも、藍色の皮膚をした子が生れるだらうと思ふので御座います……(「印象」)
"著者自刻の印譜。印材は殆ど石で、「不木」とある大きい方は竹、「書留」と下端にある「住所氏名」は木。いづれも療養生活中に彫られたものである。(『小酒井不木全集 第九巻』) |
小酒井望の肖像(大正十年十月著者帰朝後愛知県海部郡神守村に静養中写生の水彩画)(『小酒井不木全集 第六巻』) |
……どんな子が生れたら、血液の型を検べないで満足なさるの?……俺のやうに片眼の子でも生れたら……(「赦罪」)
病床にて(大正十年の小影)(『小酒井不木全集 第八巻』) |
書斎にて(大正十四年四月)(『小酒井不木全集 第一巻』) |
私に若しポオの文才があつたならば、これから述べる話も、彼の「黒猫」の十分の一ぐらゐの興味を読者に与へることが出来るかもしれない……(「犬神」)
書斎に於ける著者(大正十四年撮影)(『小酒井不木全集 第九巻』) |
よしそれが冗談であるにしても若い女の身体へ絵をかくことは、決してなさるものではありませんよ……(「メヂユーサの首」)
自宅庭園にて(大正十四年九月・著者・久枝夫人・望)(『小酒井不木全集 第十一巻』) 「小酒井不木先生の家庭」(『化粧之友』昭和2年11月号) |
……人工心臓こそは病気に対する恐怖心を完全に除くものだ! 人工心臓こそは人をして楽園に遊ばしめるものだ! 何といふ平安な世界であらう!……(「人工心臓」)
……ねえ、わたしが死んだら、すぐ人工心臓を取りつけて頂戴、わたしはきつと甦ります……(「人工心臓」)
博士は切り捨られた腕を拾ひ上げて言つた。「君この、腕を虹にしてやるが、それで我慢出来ぬか」……(「二重人格者」)
「闘病術」出版記念会(大正十五年九月名古屋商工会議所楼上に於て・前列向って右より國枝史郎氏・別所彰善氏・著者・木下杢太郎氏)(『小酒井不木全集 第十五巻』) |
……私はあなたの若さに恋して居るのではありません。あなたといふ人に恋して居ります……(「長生薬由来」)
大正十五年名古屋ホテルに於て(向って右より川口松太郎氏・國枝史郎氏・著者・江戸川亂歩氏・本田緒生氏)(『小酒井不木全集 第十四巻』) |
……いゝところへ御いでになりましたよ。実は今、奇怪な犯罪事件が起つて、御承知の、甲賀、牧、横溝、高田、岡田の諸君がそれに関係して居るのです……(「吉祥天女の像」)
[上]短篇小説テーマ帳のある頁 [下]「疑問の黒枠」の草稿の一部(『小酒井不木全集 第四巻』) |
「そりや旦那、眼をつぶすに限りますよ」(「按摩」)
殺人=犯人の心−被害者の心(「疑問の黒枠」)
……悪人なんてこの世の中にはめつたにあるものではないよ。たゞ書物の中に沢山あるだけだ……(「疑問の黒枠」)
『闘病問答』口絵写真 昭和2年4月撮影 |
龍門党異聞上演記念(昭和2年5月帝劇に於て)(『小酒井不木全集 第十五巻』) |
……ね、早く、これで一思ひに私を突刺して下さい。紅蜘蛛の眼のところをずぶりと刺して下さい……(「紅蜘蛛の怪異」)
闇が二人を包んだ。それから……接吻の音(「死の接吻」)
……あなたは人を殺したいと思つたことはありませんか。例へばあなたの最も愛する恋人とか、または母親を……(「懐疑狂時代」)
一家揃つて(右より久枝夫人・夏江・望・著者……大正二年七月自宅にて)(『小酒井不木全集 第七巻』)※「昭和二年」に訂正。(『小酒井不木全集 第二巻』「訂正」より) |
君は何ですか?……一口にいへば、指紋の研究家とでも申しませうか……(「指紋研究家」)
演壇に立てる著者(昭和三年三月二十四日名古屋育英商業学校に於ける雄弁大会)(『小酒井不木全集 第十二巻』) |
……あの、したまがりの花の毒々しい色を思はせるやうな人肉の焼けるにほひは、とても、ほかのにほひでは真似が出来ぬ……(「死体蝋燭」)
……幸ひに君は真の詩人の一人であり、僕は真の科学者の一人なのだ……(「二人の思想家」)
……さきに狩尾博士を失ひ、今また毛利先生の訃にあふといふのは、何たる日本の不幸事であらう……(「闘争」)
昭和三年の筆蹟「衣更帯に小猫のざれかかる」(絵は木村晴三氏)(『小酒井不木全集 第十巻』) |
創作構想ノートの一部 「遂に鐘は鳴った」の着想(『小酒井不木全集 第十六巻』) |
……鶴吉は狂気のやうに鐘をついた。けれども、鐘は鳴らなかつた。どこに創があるでもないのに、鐘は響きを拒んだ……(「遂に鐘は鳴つた」)
創作構想ノートの一部 構想中徒然の落書 (『小酒井不木全集 第十六巻』) |
いふまでもなく、僕の自殺の動機は失恋だ……(「ある自殺者の手記」)
……もしやこの眠り薬が恐ろしい毒薬でありはしないか……(「眠り薬」)
『タナトプシス』口絵写真 撮影年月不明 |
昭和三年秋の筆蹟。絵は庭の葡萄の葉を取って来て写生されたもの。句は「いつとんで来たか机に黄の一葉」(『小酒井不木全集 第九巻』 |
展望塔の上……毒薬をのみ、ベンチに腰かけて、美しい風景をながめながら、永久の眠りにつく……なんと詩的な死に方ではありませんか(「展望塔の死美人」)
『スペードのキング 四枚のクラブ一』口絵写真 撮影年月不明 |
……犯罪の魅力は生命の魅力にまさる……(「鼻に基く殺人」)
書簡の片影 昭和四年三月三十日仰臥しつゝ書かれし井口氏宛最後の書簡(右)明治四十三年高等学校時代に桑原氏に宛てし書簡(左)(『小酒井不木全集 第十二巻』) |
……僕は、僕は人を殺しやしません。僕の魂が人を殺したのです……(「分身の秘法」)
……君、君はなぜ、のまぬのだ。やつぱり君の話は嘘だつたのか……(「卑怯な毒殺」)
著者終焉直後の死顔スケツチ(『小酒井不木全集 第二巻』) |
……猫の眼のやうに光るのは、まがひもなく彼女の右の眼でした……(「猫と村正」)
……私は宝暦×年の今月今日に生れましたから、今日で丁度、満百五十歳になるので御座います……(「血友病」)
……婦人科医黒瀬小太郎が、叔父を殺さうと決心してから、もう半年あまりも過ぎた……(「姙術魔」)
最後の面影(終焉直後大澤鉦一郎氏のスケツチ)(『小酒井不木全集 第十三巻』) |
現在の小酒井邸(昭和五年九月中旬撮影)(『小酒井不木全集 第十七巻』) |
愛用せられたる万年筆と紙ナイフ(『小酒井不木全集 第十七巻』) |
小酒井不木展 パンフレット (1995年11月24日〜12月24日 於、愛知県図書館) |