「小酒井不木文庫」について



 名古屋大空襲を奇跡的に免れ、土蔵に残った蔵書約三千冊を、一九七五年に妻ひさゑ(一九七九没)が名古屋市へ寄贈した。市教育委員の一人が愛知医大教授の岡田博(公衆衛生学)だった縁で、蔵書のうち医学、英米文学などの洋書は愛知医科大学に、江戸時代の和本は蓬左文庫に収められ、ともに「小酒井不木文庫」と名付けられた。

『文学館探索』榊原浩(新潮選書・1997年9月25日発行)


 愛知医大の医学情報センターでまとめられた「小酒井不木文庫」は全て原書で約500冊。殆どは英語だがドイツ語・フランス語の書籍も目につき、貴重な文献資料が多いという。例えばハーヴェイの『血液循環の法則』、ラエネックの『胸部疾患の特長と聴診』、ハヴロック・エリスの『性の心理学研究』、クラフト・エヴィング『性の精神病学』など。また榊原氏は、不木が難解で知られるサー・トーマス・ブラウンの『著作集』をあちこちで引用している事に注目し、不木の英文学者としての資質を評価している。
 名古屋市蓬左文庫に残されている和書の方は「中国や日本近世の犯罪文学の研究」の為に集めた書物が約500冊にのぼり、この方面での研究の充実は、不木の大きな業績の一つとされるところである。
 榊原氏の著書によれば、小酒井不木の構想ノートや日記などの資料も何らかの形で保存されているようだが、性質上目録には掲載されていないので残念ながらその全貌を簡単に掴む事は出来ない。

 以上全て前述の『文学館探索』より「小酒井不木文庫」の項の要約である。興味のある方は是非ご一読を。