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日記

大正十年

一月一日
受 年賀状沢山

志、俊両君来る。泊す。望や自分の写真をとりなどす。

一月二日
発 林(※1)太郎、遠山郁三

志、俊両君去る。午前両君去りて後父上来らる。林(※2)太郎、遠山両君に味淋(※3)漬を名古屋より送つて貰ふ。藤田敏彦氏より「九重」を送らる。

一月三日
受 清水勝三 「過敏性」刷本一冊 Dr,Cocaより二冊Christmas Present
発 Mrs.Coca(久枝) Dr.Coca(自分より) 藤田敏彦(久枝より)

敦子来る、泊す。清水氏より別刷終了の旨通知あり。同時に刷本一冊送り来る。其の通読にかゝり正誤表を作る。

一月四日
発 清水勝三、古畑種基、二階堂一種

敦子午後去る。

一月五日
森川きく子さん久枝の許に、藤浪由之兄自分を訪ねて快談、森川さん泊す。

一月六日
発 藤浪由之

森川さん午後帰る。入れかはりに犬養六郎君来訪。久振りの会談興不尽。

一月七日
午前志、俊両君来り昼飯後去る。
午後東北法医教室勤務の山田伶君来る大に語る。

一月八日
受 林利太郎 藤浪鑑 仙台より沢山賀状転送
発 佐谷有吉 五十嵐直三

一月九日
今朝紅痰に驚く。一日中静臥す。
父上母上名古屋より来られ昼食後久しからずして帰名さる。

一月十日
受 医学及医政、医事新報(鈴置氏)

まだ紅痰去らず一日静臥。

一月十一日
受 俊二
発 鈴置保長

紅痰まだあり一日静臥。

一月十二日
紅痰殆んど影をひそむ。

一月十三日
受 実験医報 日下部彦四郎 小川止孝 五十嵐直三 今枝霞庭
発 日下部彦四郎 遠山郊三 五十嵐玲 (コーヒ茶碗)

小川総長より見舞状が来た。日下部彦四郎氏より衛生教室予算のことをいつて来た。他教室に融通して貰ふことに返事した。志津君が来た。午後帰る。スコツトの湖上の美人の訳を読む。

一月十四日
受 山上熊市 犬養六郎 清水勝三(過敏性届出) 井口正周
発 山上熊市 犬養六郎 井口正周 今井甚太郎

湖上の美人を読み終る。

一月十五日
受 東北大学医学部 過敏性奥付五百枚 丸井清恭
発 清水勝三 同上(※4)(書留小包)

二階堂助手任命、十三日附発表になることを報じて来た。

一月十六日

一月十七日

一月十八日
受 井上嘉都治 二階堂一種 医学部(請暇届) 井口正周 Viol. Stewart 五十嵐玲
発 遠山部長 井上教授 請暇届 田村利雄

一月十九日
受 五十嵐玲、二村先生、俊二

午前母上来られ夜遅く父上来らる。年貢勘定の為、昨日より少しく痰紅くしてあまりよい気持せず。然し自分には強い強い意志あり。飽く迄病と戦ひ遂に勝利を得む。

一月二十日
受 青木薫、出田保雄

午後、“Quo Vadis”を読みかける。

一月二十一日
受 出田保雄(カステーラ一箱) 石原房雄
発 出田保雄 山田伶 二階堂一種

一月二十二日
受 Violet Stewart

夜遅く井口正周氏の来訪あり久し振りに懐かしき快談尽きず。朝から母上に来て貰ふ。

一月二十三日
受 Daily Mirror 医学及医政(七冊) 五十嵐 渋谷正孝氏書転地許可書 来学期時間表下作
発 渋谷正孝 五十嵐(※5) 井口正周(午後)

井口氏午後一時三十分蟹江発にて帰途につかる。

一月二十四日
受 井口正周、二階堂一種(書留)

今日望を名古屋の家に遣はす寂し。

一月二十五日
受 井口正周
発 Violet Stewart

久枝午後望をよびに行く。

一月二十六日
受 Mrs.Coca、関西医界時報、山田伶

一月二十七日
受 日下部彦四郎
発 午後 山田伶 日下部彦四郎 二階堂一種 川村宏

日下部氏より今月分俸給¥250.77を送り来る。勿体なき事也。九給俸1800,講座料1250.

一月二十八日
夜食前小喀血あり。悲観して安静を取る。

一月二十九日
一日中安静にして居る。夕方敦子来る。

一月三十日
Violet Stewart、山田伶氏親戚
東海薬報(川村氏)

血痰殆んど朝から止まれり。

一月三十一日
一日中静臥す。

二月一日
受 「過敏性」五冊 井口正周 志津夫
発 井口正周 林利太郎 川村宏 清水勝三

待ちに待つた過敏性の五冊が来た。自分の本はうれしいものだ。よく清水氏がやつてくれた。切に感謝する。

二月二日
受 清水勝三
発 Dr. A. F. Coca. 過敏性三冊同氏へ

二月三日
受 Daily Mirror(二冊) 石神研究所集談会誌 西成甫
発 西成甫

母上帰らる。

二月四日
受 日下部彦四郎 川村泉
発 日下部彦四郎

日下部氏より昨年十一月及十二月分の俸給を送つて来た。
 ¥228,480

二月五日
父上夜遅く来たる。少し興奮して眠られざりし故Mosphinを飲む。

二月六日
受 二階堂一種
発 二階堂一種 川村泉

父上帰名せらる。

二月七日
曇り日故一日中床の上に暮す。

二月八日
受 Violet St. 谷口礼二
旧正月元旦也

快晴なれば庭に出たりなどす。春光美し。

二月九日
受 朝山栄二
発 朝山栄二

一点の微翳もなければ東の庭に梅の花を愛でたりす。望と共に日にあたる。春光美はしとも美はし。湯に入りなどす。

二月十日
受 河本てる

今日も暖かき日也。旧正月の三日目子供の哀もあるべし。庭に出で散歩などす。河本氏からは故亀之助氏の五十日の挨拶也。夜遅く父上来らる。

二月十一日
一日中背部いたみしが夜高熱ありて不愉快也。

二月十二日
受 実験医報 Daily Mirror 高島平三郎 井手敏男 鶴見志津夫 二階堂一種
発 高松定一 高島平三郎

母上来られる。志津夫君の送りし蟹を持つて也。

二月十三日
受 Mrs. Stewart.
発 二階堂一種

今日Jodkaliを内服せしにIdiosynclasy(※6)ありと見えて大に悩む。Conjunctivitis甚だし。とんだ目にあへり。

二月十四日
一日中Jodidiosynclの為に苦しむ。発熱さへあり。

二月十五日
受 遠山部長 永井先生 渋谷正孝
(名古屋投函)発 永井先生 遠山部長(請暇頼入) 渋谷正孝 克誠堂

遠山学兄は一度仙台へ来ぬかと云つて来た。永井先生は高島先生夫人の訃を態々知らされた。

二月十六日
発 河本てる

(※1)(※2)本文ママ。「利」太郎が正しいか?
(※3)本文ママ。「味醂」の誤植か?
(※4)本文書が横書きの為位置がずれるが、清水勝三を指す。
(※5)本文ママ。「玲」の誤植。
(※6)本文ママ。正しい綴りは「idiosyncrasy」。「特異体質反応」の意。

底本:『小酒井不木全集 第八巻』(改造社・昭和4年12月30日発行)