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日記

大正七年

十二月一日(日)

 晴、午後安藤君のブレツトンホールに謎の女と逢ふ。始めての試をなす。愉快なり。二時頃プラリザに永井松三氏夫妻、中野君と午食を共にす。夜、松尾君と夕食を共にし又語る。

十二月二日(月)

 晴、今日永井松三氏英国に出発せられる。ピーアに行きしも入場不許、ルーシスに働き、夕方中野君と河添に行く。松尾、安藤君と語る。
   受 久枝、志津夫、鶴見(新聞画帳等沢山)

十二月三日(火)

 晴、一日ルーシスに働き、夜中野君に逢ふ。同君はワシントンに行かる。余は「都」に松尾君、安東君と夕食を共にし、安東君の宿なるブレツトンホールを訪ひ、モードに電話をかけて行く。大いに楽しむを得たり。愉快也。
   発 中央金庫
   受 文部省(六百九十円)、藤谷氏葬儀委員

十二月四日(水)

 午前Dr.Cocaをオルトペヂツクホスピタルに訪ひ、午後はアカデミオブメヂシンに立寄る。夜は松尾君、安藤君等と夕食を共にし、後安藤君の許に語る。辰野君等来合はす。

十二月五日(木)

 晴、昨夜中野君ワシントンより帰り駄目なりし旨電話ありし故本朝行く。後ミセスフアレルを煩はしてインミグレーシヨン・インスペクターに行き、アンナウンスメントをすましワナメーカーにミスターフアラーと午食を共にす。ミセスを自動車にて送り帰し中野君と色々用たしをなし、三井へも行き夜は手紙を書く。

十二月六日(金)

 晴、ルーシスに働く。夕方安東君を訪ひ、松尾、額田、尾崎、中野、其他の諸君と「都」に夕食を共にす。後、中野君、尾崎君と三人メトロポリタンオペラハウスに伊太利歌劇トスカを見る。ムチオのトスカ実に好し。言葉の通ぜざるを悲しむ。
   発 永井先生、碓居龍太、久枝、鶴見父、佐藤彰(二枚)、加藤与治郎
   受 国光勉造、鶴見父、俊二、前田太郎

十二月七日(土)

 晴、今日は時間もなき事故、ルーシスをやめる。ブレツトンホールに安藤君を訪ふ。モードの許に行くことはやめる。安藤君、額田君、辰野君と「都」に夕食し、又ブレツトンホールに帰り、後、辰野君の室に少し行く。アンナ居たり、明日を約して帰る。

十二月八日(日)

 朝曇、正午中野君を訪ね二人して其辺を散歩し、三時ブレツトンホールに行く。松尾君の室を訪ひアンナに逢ひ居る内ボーイ来りて面喰ふ。四三〇号に転ず。夜松尾君にAを託し、安藤、安東両君と「都」に行き、後安東君とモードを訪ひぬ。
   発 橋本資輔

十二月九日(月)

 晴、実験室に行きて実験の補遺をなす。夕方中野氏に逢ひモードを訪ひぬ。

十二月十日(火)

 午前中野兄と共に蓄音機レコード等買物をなす。後菊地(※1)写真館に行きて記念の撮影をなしたりなどす。中野兄とTokioに夕食を共にす。

十二月十一日(水)

 午後オルトペヂツクに行く。コーカ氏不在、電話にて明日逢ふ旨を約す。

十二月十二日(木)

 午前Drcoca氏をorth.に訪ひ実験の結果を語る。後アイメルアメンドに行きなどす。午前偶然ホテルマルセーユに宮崎君に逢ふ。同君の兄上泉(伍郎)君と共也。夜川添にて共に日本食をたべる。後松尾君を訪ねて語る。

十二月十三日(金)

 雨、午前午後Acad. of Med.に暮らす。午後Dr.Cocaに逢ふ。アナフイラキシーのリテラツールに没頭す。コーカ氏同氏の著述原稿を齎らさる。夜、中野君に逢ひ、後ミセスロバーツ方にヘルマーを見る。

十二月十四日(土)

 夜、伊藤金二、中野君と「都」に食を共にす。
   受 石田昇
   発 石田昇

十二月十五日(日)

 曇雨、中野兄の帰国をペンステーションに午前十一時四分に送る。午後家に暮らす。夕方宮崎君を訪ふ。

十二月十六日(月)

 曇後晴、午前、宮崎、泉両君来る。午食後ロツクフエラーに行き、高野、山川、松尾、小松氏と語る。夕方河添にて食事を共にす。

十二月十七日(火)

 快晴、日中家に居る。夜は河添にて安藤君に逢ふ。同君は愈々明日帰朝との事、夜は松尾君と共にRoberts方に行けり。
   受 石田昇
   発 石田昇、丸井清泰、ロエーブ(レプリント共)、Miss E(仏語)、領事館

十二月十八日(水)

 晴、オルトペヂツクホスピタルにDr.Cocaを訪ふ。留守なり。Acad. of Med.に行く。午前Miss Kelleyと大いに語る。大いに愉快なり。
   受 中野俊三

十二月十九日(木)

 晴、アカデミーオブメヂシンに行きて勉強せり。夜Dr.Cocaより電話かゝり来る。正金銀行へ行きBrown Brothersにまわる。
   受 宮崎鉄太郎、Miss Engell
   発 中野俊三、久枝、Miss Engell

十二月二十日(金)

 晴、今日も一日家にありてアナフイラキシーを読む。夕方宮崎君に来て貰ひ、後二人(※2)して河添に行く。松尾君に逢ひ、後松尾君と共に同君の家に行きて語る。
   受 Dr.Loeb.(別刷)
   発 Dr.Coca. Dr.Hatcher. Dr.Leawer. Dr.Berkeler Miss Kelley,Dr.Loeb.

十二月二十一日(土)

 午前中家にありてアナフイラキシーを読む。午後「ミカサ」に買物に行く。夜河添にて飯を食す。父上よりの手紙に久枝少しく眼を病めりと聞く。

十二月二十二日(日)

 雨、午前十一時Miss Engellを訪ひ、仏語を習ふことに事をfixして帰る。午頃宮崎兄を訪ひて語る。家に帰ればアンクル ジムがタイムスの切抜きを示す。石田氏が医員を殺せりとあり、大いに驚く。取敢へずブラツシエ先生及び松本高三郎氏に手紙を出す。夕方は河添にて飯を食す。
   受 久枝
   発 ドクトルブラツシユ、松本高三郎

十二月二十三日(月)

 午前orth. Hosp.に行き愈々仕事に取りかゝる。夕方河添に行く。松尾君に逢ふ。後、Hotel Ansoniaに行きMiss Engellより仏語を習ふ。面白し。
   受 久枝、浜田満次郎、Miss Engell
   発 Mrs Roberts.

十二月二十四日(火)

 雨、午前orth. Hosp.に行き昼頃菊池(※3)へ写真を取りに行き大雨を冒して帰る。Dr.Cocaと共に働き夕方は河添にて伊藤金二君の誕生によばれ夜金二君をMrs Rに訪ふ。
   受 中外(藤浪剛一)、新聞(柴田、藤浪)
   発 中野俊三(写真)

十二月二十五日(水)

クリスマス也。午前山川誠氏来る。杉本丸井氏より石田兄の詳報あり。午後四時よりコロンビア大学のアールホールにミスターヱドモンドの招待を受ける。午後六時まで集り六時よりオルトペヂツクに行きDr.Coca及びミセスコーカに逢ひ、三人してナツソーにて食事し後三人してリヴオリにてナヂモーヴアの活動写真を見る。
   受 林亥之助、Miss Engell(カード)、丸井清泰、松本高三郎
   発 林亥之助、松本高三郎、丸井清泰、柴田萬吉

十二月二十六日(木)

 Crt.h Hosp.に行く。カルブミンのフイルトレーシヨンをなす。午後松尾君来りAnnaの事を相談す。領事にあひて石田兄のことを話す。河添にて食事す。

十二月二十七日(金)

 Orth. Hosp.にあり。午後四時宮崎兄とRockfeller Instに行きDr.Loebを訪ひ色々実験を見せて貰ひて来る。高野兄と河添にて三人して食事し、後French LessonをHotel Ansoniaに取る。
   受 Dr.Berkeley

十二月二十八日(土)

 晴、午前Hotel Ansoniaにて室をfixし、後Orth. Hosp.に行く、午後家にあり。夜はAnnaに逢ふ。十一時まで居て松尾兄に引渡して帰る。朝早くEvening Journalの記者Kohler君、石田兄の事を聞きに来る。
   受 柴田萬吉、丸井清泰

十二月二十九日(日)

 午後Orth. Hosp.に行く。夕方は河添にて安藤君に逢ひ後共にMraudを訪ふ。
   発 Dr.Hatcher(絵葉書)

十二月三十日(月)

 晴、午前Orthに行けば熱のためアルブミン凝固して実験はオヂヤン也。致し方なし。午後Dr.Cocaと語る。夜河添に行く。790 River Sideに仏語のレツソンを取る。
   受 鶴見父、志津夫、中野俊(ソルトレーキ)、父上新聞、雑誌(藤浪)、碓居(五十嵐、青木)、小畑、藤本、柴田萬吉、佐藤安太郎、久保田晴光、新聞(藤浪)

十二月三十一日

 夜雨、午前orth Hosp.に行かんとすれども仕事なき侭、銀行に金を取りに行きなどす。夜は河添に高島、松尾三人落合ひ、後Miss Wellsの家に会合し色々の遊びをなして帰る。来会するもの十有余人。

(※1)(※3)本文ママ。正しくは「菊地」か「菊池」か不明。
(※2)本文ママ。

底本:『小酒井不木全集 第八巻』(改造社・昭和4年12月30日発行)