参考文献/資料集 1927(昭和2)年

(公開:2007年2月13日 最終更新:2017年11月17日)
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1月

(マイクロホン)◇道楽も三年 / 大下宇陀児

『新青年』 1月1日発行

 おひつこしで、ひよいと一冊だけ荷作りから抜け落ちたのが、新青年大震災記念号、パラパラ頁を繰ると出て来たのが、ドウーゼの「夜の冒険」五百円懸賞当選者発表といふ奴。そこでその中に、次の四つのフアミリヤネイムスを発見したといふ訳。曰く、蜘蛛手緑、横溝正史、水谷準それから一段成績の悪い所に、甲賀三郎。なんとお互様に感慨無量な話ではあるまいか。

(マイクロホン) / 川田功

『新青年』 1月1日発行

 私は云ふ。探偵小説作家と、探偵小説愛読家とは共に悪をなし得ないと。何となれば、これ程悪を見せつけられて見ると世の中は恐ろしい。悪の天才家と云ふ奴は滅多に無い。だから恐ろしいと思へば引込んで了ふ。
 斯く申す私も悪の素質は人並になつた筈だ。処が、江戸川、甲賀、小酒井、横溝、大下、城、水谷、延原、巨勢、田中、妹尾、平林、雨村、國枝、羽志、久山、保篠、神部、春日野、牧、角田、等々々、微酔して居るから思ひ出せない人があるかも知れないが、かう云ふ悪友達が到頭僕を善人にして了ひやがつた。

◆編輯局から / 雨村生

『新青年』 1月1日発行

◆金沢医科大学の古畑博士が、汎太平洋学術会議へ出て来られたのを幸ひ、高田義一郎博士を誘つて、長谷川編輯局長と四人で晩飯を食つた。
◆その席上、高田氏の言はれることに、新青年と初めて近づきになったのは、独逸留学中のことで、それも病気でベルリンの宿舎に臥つてゐる時、古畑君が読めと云つて持つて来てくれたので、新青年といふ雑誌があることを始めて知つたわけであるしかし、その時分から見ると、新青年も随分と変つたもので、まるで少年が大人になつたやうなものですね――と思ひ出話。
◆考へてみれば、それは大正十年、小酒井博士のドーゼの「スミルノ博士の日記」が連載されてゐた頃のことに違ひない。小酒井氏がベルリンの古畑君から探偵小説を大分送つてもらつた同君もその方面に趣味があるから、雑誌を送つてもらひたいとのことで、暫くお送りしたことであつた。それを古畑氏が病床の高田氏に持つてゆかれたのだ。爾来何年、伯林で別れて以来の両氏が久々で会はれて、いろいろと興深い追懐談である。これに小酒井氏がゐられたならと思つたのは、時分ばかりではあるまい。

恋愛曲線を称ふ / 横溝正史

『新青年』 1月増刊号

河合武雄氏のため 『紅蜘蛛奇譚』を 小酒井博士が書き下す 十五日頃新守座上演

『名古屋新聞』 1月7日

参照: 「名古屋新聞」昭和2年1月7日

興味ある読物予告

『名古屋新聞』 1月9日

小酒井不木氏作 探偵戯曲 紅蜘蛛奇譚 十一日紙上より掲載

大衆文芸往来

『大衆文芸』 1月号

□小酒井不木氏――近来いよいよ御壮健にて「新青年」の新年号より創作探偵小説「疑問の黒枠」と題する長篇小説を執筆。これは同氏最初の長篇創作で大変意気込んで居られます。尚同氏の創作探偵小説集「恋愛曲線」は此の程春陽堂から発売されました。御住所は名古屋市中区御器所町字北丸屋。

小酒井不木氏の「恋愛曲線」寸感 / 國枝史郎

『名古屋新聞』 1月11日

最近文士録

『文芸公論』 1月号

小酒井不木

 光次、明治廿三年十月愛知県に生る。東大医学部卒業。英米仏に三ヶ年留学。大正十年医博となる。「科学探偵」其他著書多し。現住所、名古屋市中区御器所町北丸屋八二

2月

(『喜多村緑郎日記』)二月八日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

晴。温かいといつても、小酒井不木のうちを出て、寺田と、野沢と三人で公園まであるいたら、寒かつた。
 帰りそびれたる雪雲になぐれ風ある
   小酒井不木氏を招待して
 卓の草花も春の夜の灯に活々する    内屋敷にて
 あかるい春夜の笑ひ声であつた
   得月の二階で  仄青い眼瞼の暈を見るまでの春夜となる

(マイクロフオン) / 石垣芳之助

『新青年』 2月号

「疑問の黒枠」の書き出しの物々しさ、小酒井と言ふ人を目の前に見るやうです。既に臭味も魅力と開き直られたんだから、今後の内容の展開にある不気味ささへ感じます。

(マイクロフオン) / 久山秀子

『新青年』 2月号

○「発見」や「千人の散歩者」の(心の踊)に恐れ入つて、探偵作家としての佐藤氏や佐々木氏を、江戸川氏や甲賀氏や小酒井氏の上位に置く人が有つて?――ぢやあなたは、専門の文芸雑誌を読んでればいゝのよ。

編輯だより / 横溝生

『新青年』 2月号

(前略)「疑問の黒枠」の、あのガツチリと四つに組んだ堂々たる書き振りには、何人も敬服せずには居られぬだらう。

大衆文芸往来 / 札幌市・福島北堂

『大衆文芸』 2月号

記事では長谷川伸氏旅の者心中、江戸川乱歩氏灰神楽、正木不如丘氏猿語人話、光り苔、白井喬二氏目明藤五郎、小酒井不木氏メジユウサの首、湊邦三氏艶書殺人、花骨牌、江戸川乱歩氏お勢登場、等が最も興味深く且つ印象に残つてゐます。

大衆文芸往来

『大衆文芸』 2月号

其内で何よりも印象に残るのが光り苔、死の接吻、道真と時平、お勢登場、巾着切、山窩の恋、風流試肝会、古名刺奇譚、鎌倉三代記、目明き藤五郎が一番印象に残つてをります。

大衆文芸往来 / 京都・美津操

『大衆文芸』 2月号

小酒井氏よ! 翻訳物は止めて下さい。

大衆文芸往来 / 岡崎市・鷹本かづ

『大衆文芸』 2月号

小酒井先生のドウゼのものもありがたく拝見いたしてますの。

3月

(マイクロフオン) / 川田功

『新青年』 3月号

「疑問の黒枠」は私の知人達が非常に期待して居ります

(マイクロフオン) / 国枝史郎

『新青年』 3月号

 作者は大方「型」を持つてゐます。その「型」の中で微動し乍ら創作をつゞけて行くときはまづあぶな気がありません。一通りのものは作れます。そいつを何時迄もつづけてゐると作が生気を失ひます。「型」を思ひ切つて破壊するか、乃至は「型」の中に居り乍ら深く下へ掘り下げるか、どつちかしなければなりますまい。小酒井不木氏の「疑問の黒枠」は一方「型」を深く掘り下げ一方「型」を破らうとして居ります。かういふ意味に於て問題にされませう。

(マイクロフオン) / 春日野緑

『新青年』 3月号

 小酒井先生の「疑問の黒枠」は大変興深く読みました。久しぶりに会心の傑作が展開されるやうな期待がされます。たゞ第一回の中で死亡広告をのせた新聞社は余程の大きな新聞社ですね、大抵どこの社会部で、その日ゝゝゝの死亡広告には眼を通して有名な人ならすぐ記事にして報道するのだから、その晩の中にニセ広告と分るであらうしさうすれば、こゝに更に新聞記者が活動し得るワケです。かうした方が自然ではないでせうか、(新聞記者としての立場から一寸余計な事を申上げます)

新刊紹介

『大衆文芸』 3月号

参照: 書評・新刊案内『恋愛曲線』

大衆文芸往来

『大衆文芸』 3月号

□小酒井不木氏――河合武雄一派のために髷物探偵劇「紅蜘蛛奇譚」を執筆し、名古屋新守座に上演非常な好評を博しました。

大衆文芸往来 / 大阪・冬夏生

『大衆文芸』 3月号

読者欄で、何とか云ふ人が、小酒井さんに翻訳物をやめてくれといつてゐるが、僕は、彼の探偵カリング活躍する所のドーゼ物は大好です、どうかお続け下さい。

大衆文芸往来 / 正坊

『大衆文芸』 3月号

私は只今毎月本紙と文芸春秋、新青年、探偵趣味の四誌を求めてをります。之に依つて私が江戸川乱歩、小酒井不木等の人が好きだといふ事がおわかりでせう。

大衆文芸往来 / 東京・岡田総太郎

『大衆文芸』 3月号

又、本号から、小酒井先生が翻訳物で誤魔化してゐる様ですが大衆文芸には、純然たる創作のみ載せる筈です、私は大反対です。

編輯後記 / (準)

『探偵趣味』 3月号

◇春三月、新しく生れるべき作家達は、一体何をしてゐるのだ。野の花は、徒らに既成作家のみ多くして、新進の溌溂とした柔い手のなき事を歎いてゐるではないか。第二の乱歩、三郎、不木よし、されども我々の一層期待して止まぬはレコードブリーカーと同時に、ネオ、スポーツの発見と新型のスプリンタアなのである。

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『文芸春秋』 3月号

医学博士 藤本武平二先生発明
日米政府専売特許 肺結核治癒促進 石灰吸入療法(三田村商店)
→文献贈呈 「三、小酒井博士 体験報告」
「小酒井不木先生推奨」
小酒井先生は「実業之日本」九月号紙上で藤本博士の肺結核新療法に対する予の実験と題せられ本療法の有効なるを推奨された

4月

(マイクロフオン)酔中漫罵 / 甲賀三郎

『新青年』 4月号

△不木君の長篇、構想の雄大と叩けば火を発しさうな組立の緻密さに敬服する。但し読者をして五里霧中に彷徨せしめ、仮想犯人を想定するの暇(いとま)なからしめるのは遺憾だ。この点亂歩君の新聞連載の一寸法師又然りだ。明智小五郎徒らに紋三と読者をヂラすだけで、読者には比(たと)へ間違つてゐたにせよ、ある特定の一人に疑惑を集注し濃厚ならしめないのは物足らぬ。我輩は探偵小説は少くとも中篇以後に於て数学で所謂コムバーゼントでなければならぬと思つてゐる。両君のは些かダイバーゼントである。尤も未だ中篇に達してゐないのなら詫る。

(マイクロフオン)三月号寸評 / 江戸川生

『新青年』 4月号

小酒井氏の「疑問の黒枠」 これは未曾有の大作である。といふ意味は、誰かゞ云つた様にガツシリと四つに組んでゐるといふ位のことでは足りない。それ以上に一つの重大な特色あることを見落してはならない。探偵的な魅力は実に広い分野を持つてゐるのだがこの作はそのどちらかの端に位するものだ。つまり極端に推理的な興味を追ひ、殆どそれ丈けで終始しようとしてゐる感じがある。少くともこの作の魅力は極端に科学的な所にある。我々が学問の本に興味を持ち、論理的な文章に魅力を感ずるのは、やはり一種の探偵趣味なのだが、その場合には、論理の進め方が複雑であればある程、難解であればある程魅力が大きい。(但しその論理に少しの錯誤もないことを条件とする。その安心がなくては魅力がない。)で、さうした魅力の最左端を追つたのが、この小酒井氏の長篇であるといつていゝ。この位緻密で論理的科学的な記述は外国にも例がなからう。同じ雑誌のドイルにしろビーストンの長篇にしろ、同じ傾向でゐて、比べものにならない程散漫なのを見よ。だが、散漫といふことはユトリといふこと、ユトリのない点がいゝと云へない。小酒井氏の長篇の弱味はこのユトリといふか、筋の装飾といふ、甘味(かんみ)といふか、そんなものが少しく不足してゐる点だ。めまぐるしき論理の進行に、読むものは疲れを覚え、それを救ふオアシスが中々来ないことだ。併し僕一個の好みから云へば、このユトリのない点、複雑極まる論理の進行そのものに、云ふに云はれぬ甘さを感じてゐるのだが。それはむづかしい学問の本を一行々々読みこなして行くあの甘さ同じものだ。大家の投げやりでない苦心の程に頭をさげる。

編輯局から / 横溝生

『新青年』 4月号

◆「疑問の黒枠」は約八回の予定本号でその半ば迄来たが、驚くべき程の好評を以て迎へられてゐる。何しろ本当の意味で言へば、日本で最初の長篇探偵小説であるから当然の事である。編者は特に小酒井氏に乞ふて、これに犯人捜索の懸賞を附ける事にしたから、せいゞゝ深い注意を払ひ乍ら読んで戴きたい。

参与官と労働代表 / 江戸川亂歩

『大衆文芸』 4月号

□それは僕の二人の恩人だ。恩人と云へば小説を書き始めてからでは、同人の小酒井不木氏や森下雨村氏なんかもあるのだが、それは余り近い所で書けないから、記憶の中にいつも生きてゐる二人男。逓信省参与官川崎克氏と第一回労働代表で騒がれた桝本卯平氏のことを思出して見る。

編輯後記 / 池内生

『大衆文芸』 4月号

□本号での第一の読物は小酒井氏の「龍門党異聞」であらう。探偵小説家として嘖々の令名ある同氏が河合武雄氏の懇望により執筆せられたる髷物探偵劇である。枚数百二十枚。近く河合一派に依つて上演せらるゝ予定である。

□小酒井氏の「毒蛇の秘密」本山氏の「日蓮新説法」は紙面大超過のために止むなく次号に廻す事になりました。

『恋愛曲線』雑感 / 田中早苗

『探偵趣味』 4月号

参照: 翻刻テキスト:「『恋愛曲線』雑感」

5月

5月

(マイクロフオン) / 徳川夢声

『新青年』 5月号

 四月号の読物の中、空中で最後を遂げると云ふ奇想天外な事が、亂歩氏の『パノラマ島奇譚』と水谷氏の『お、それ、みよ』と二つに出て来るのは面白いです。それから棺桶なるものが不木氏のものにも、葉山氏のものにも、ピランデルロのものにも、まだ其他の作品にも可なり主要な役割を演じてゐるのも面白いです。
 まつたく暗合て、不気味で、愉快で、厄介なものですナ。

(マイクロフオン) / 春日野緑

『新青年』 5月号

三月の私のマイクロに『よつぽどのんきな新聞』とかいたのが『よつぽどの大きな新聞』となつてゐるのに閉口したが今度のクリステイ女史の文中『写真にある如く頗る美人』とあるのにも閉口した、写真をつけて送つたのだが都合で入れられなかつたのだから文中のこの文句も編輯者において削つてくれなくては困る。

創作探偵小説選集と一寸法師

『新青年』 5月号

(前略)因に志波西果氏は、この次には本誌連載中の小酒井不木氏の「疑問の黒枠」を撮るのだと言つて力んでゐた。

編輯局より / 横溝生

『新青年』 5月号

◆前号にも予告した通り、本号は四月五日、恰も受験地獄が一段落を告げてゐる時に出るので大いに学生諸君を慰安する意味で、なんせんす号としてみた。主に北欧作家の短篇を集めたが中に目立つのは、何と言つても小酒井不木氏のコントであらう。小酒井氏にしてこんななんせんすがあらうとは愉快ではないか。
◆小酒井氏と言へば、本号の『疑問の黒枠』を読んで下さいと、大いに叫んでみたい。本格探偵小説で、これ程面白く立派な作品は、一寸外国にも見当らない。氏はドウーゼの讃美者で、この『疑問の黒枠』にもさういふ所が随所にみられるが、然しこれは最早ドウーゼ以上である。

6月

編輯局より / 横溝生

『新青年』 6月号

◆『疑問の黒枠』は愈々最高潮に達した。八回の予定であるからあと二ヶ月となつた。これに懸賞を附した事は、あらゆる方面から同感を得たが、本号に於て詳細な梗概並びに規定を発表して置いた。賢明なる読者諸君は、既に犯人の見当を附けてゐられるかも知れないが、尚一応梗概参照の上、振つて応募して戴きたい。

7月

編輯落葉籠

『医文学』 7月号

△小酒井不木博士の作、探偵小説龍門党異聞が河合武雄、伊井蓉峰合同劇の一番目として帝劇の五月狂言に上演された。小酒井作とあるからは編輯子に見物の義務があるかのやうに心得へ、五月二十五日此狂言丈の見物に出掛けた。六時開幕とあるので時間つぶしに日比谷公園を散歩した。躑躅はもう季節に後れたが花壇には相変らず紫白黄紅の草花が今を盛りと咲き乱れてゐる。日比谷も何とか大会と云ふ会合に使はれる時は殺伐な場所になるが、公園の目的を正直に利用して花園を逍遙すると、疲れに疲れた都人士の精神的安全弁たる価値はあると肯かれる。公園でいゝ気持になつてイソゝゝと帝劇へ乗込み、小酒井劇を観た。劇は七場から成立つてゐる。第一場(浅草観音境内)の伊井の南龍(実は龍門党首領)は優が役の性根を呑込むでゐるかどうかを疑はれる程の平凡で、講釈師としても党の首領としても貫禄に乏しく、講釈に熱がなくタトヘ前講を僅かばかり弁ずるにしろマクシ立てゝゝ初代桃川如燕張りか、落付た一龍斎貞山張りにやつて貰いたかつた、あれでは江戸の人気を呼んで多くのお客を引つける力がないと直覚した。それに第一火事場の鳴物がわるい。大江戸の花とも云はるゝ火災報知には活気がなくてはならぬ。何となく拍子ヌケがしてゐて作者に気の毒の思がしてならなかつた。第二場(南龍宅)河合のお玉はよくしてゐた。アゝした役はあの優のハマリ役で東狸の口説を柳に風と受け流すあたり手に入つたもの、第三場待乳山の書割が気に入つた。第四場瀬戸の雪枝は仕どころはないが先づ綺麗だと云つて置かう。第五場壱岐守仲間部屋の場でも河合のお玉は南龍が龍門党首領と云ふ事が分つてからの仕草は上出来だ、縛ばられてイタゝゝしい中に優得意の伝法肌があつてそのスタイルが馬鹿によかつた。第七場は先づ無難。此狂言の概評を下して見ると探偵小説の劇化は今一番の工風を要すると思ふ。作者が小酒井さんなので、是非共よく観なければならぬと云ふ先入思想と前提と期待があまりに大きかつた為めか多少失望した。そして其お尻が俳優の方へ行つたのかも知れぬが、劇=就中探偵劇=は玄人筋は勿論のことだが、我々のやうな素人連にも見物をしてゐて、手に汗を握らせる所まで連れて行つて貰ふ丈の魅力と凄惨味がなくてはならぬ。俳優の方でも手勝手が分からなかつたのでもあらうが劇の本筋を呑込むで仕活すだけの努力が肝心だ。併し昨今の伊井には或は無理な注文かも知れぬ。沢正あたりなら、見事やつてのけやう。

帝劇の「龍門党異聞」劇

『大衆文芸』 7月号

□小酒井不木氏が河合武雄丈のために執筆された探偵時代劇「龍門党異聞」(本誌四月号掲載)が伊井蓉峰丈一門を迎へて四月二十一日から十日間帝劇に上演されました。
 二十一日会同人発起にて二十四日夕六時から一夕の観劇会を催しました。会員二百名、熱心な本誌愛読者の方々や、「新青年」を中心にした二十数人の一団も加はり、同人には正木、長谷川、本山、平山、江戸川諸氏に、小生と報知新聞出版部の川端氏、甲賀三郎、湊邦三、安藤盛木村哲二等も出席せられて非常に盛会でした。
 当日帝劇の特等入場者八百名には、本誌四月号(龍門党異聞所載)をお土産として洩れなく配布いたしました。
 休憩時間を利用して伊井の南龍、河合のお玉の絵葉書に同人が寄せ書きをして名古屋の小酒井氏に送りました。尚当日出席された同人並に寄稿家にお願ひした龍門党劇の感想を掲げます。

龍門党劇断片 / 荻舟

『大衆文芸』 7月号

▲第一にすゑた小酒井博士の『龍門党異聞』は、特に河合の為に書卸して、雑誌大衆文芸へ発表されたものだ、時代を幕末にして、大名のわがまゝを懲らすといふ秘密結社の活躍を見せたもの、探偵がかツたものとしては一向警察力らしいものが見られないけれど、早桶より替へのトリツクが山で、それがまた活きてゐる。

偉大なる哉大衆劇 / 木村哲二

『大衆文芸』 7月号

 脚本を読んだ時、これがうまく演出されさへすれば、実に素晴らしい大衆劇だと思つた。誰にも解つて、しかもピリツとした皮肉味を持ち、各場毎にハラヽヽとさせる何物かを残して大詰まで引締めてゆく手腕、流石に小酒井氏の作だと感心したが、すべての点に於て可成り大胆な新様式が取入れられてゐるだけに下手に演られると、安い活動写真みたいになりはしないかといふ心配をしたものだ。

面白かつた / 湊邦三

『大衆文芸』 7月号

 小酒井氏の『龍門党異聞』は、わけもなく面白かつた。もし、僕が註文すればあれで龍門党の首領になつた俳優に、もつと確かなはら芸があつて、時々、首領らしい強さ、鋭さ、凄さを奔らせて呉れたら――とかうだ。

戯曲への進出 / 長谷川伸

『大衆文芸』 7月号

 小酒井氏作「龍門党異聞」の帝劇所演を見て思ふ事は、岡本綺堂氏の扱ふ捕物趣味や、竹柴金作氏が「八百蔵吉五郎」で扱つた探偵味や、或はずつとさかのぼつて「清水定吉」や「五寸釘寅吉」や、そんな味とは全く別個な探偵劇が、戯曲の一分流として、地歩を占められるといふ予想を確固にさせた事です。(中略)
「龍門党異聞」で小手調べをした小酒井氏は、もつと進んで戯曲を書くであらうかういふ事も直感されます。氏の作品の中には、小劇場風の戯曲の素材がいくらもある、やがて氏はそれをモノすであらう、氏の持つ科学基礎的探偵戯曲、くらい、陰惨な、人生の一部を戦慄させる抉るやうな戯曲、思想的にくらい陰惨さよりも恐しい、実在を信じて恐怖を感じさせる戯曲、そんなものゝ幾つかゞ出来る事を予想しても、当然であるだらうと思ひます。

仲間部屋の訴へ / 池内祥三

『大衆文芸』 7月号

 仲間部屋の第五場で裏切り者の南龍の弟子の東狸が「何者にかに浚はれて行つた」と云ふあの訴への所を今少し強く見物衆の頭に響かしておく必要はあるまいか。あそこの所は相当重要視しなければ最後の娘の棺桶と、東狸の棺桶を海中でスリ代へたトリツクが判然としない。原作では、第六場と第七場の間に字幕を出す仕掛けになつてゐた筈だ。この字幕があれば判然と筋が知れたらうが、字幕をぬいてはあの仲間部屋あのまゝの訴への演技だけでは少々物足りなく思つた。

大衆文芸往来

『大衆文芸』 7月号

□小酒井不木氏――同氏作「龍門党異聞」(本誌四月号掲載)は伊井河合一派の久々の夫婦劇で名古屋の新守座に上演せられ、つゞいて、二十一日より十日間帝劇にて上演、二十四日に大衆文芸観劇会を催し、非常な盛会でした。

大衆文芸往来 / 愛読生

『大衆文芸』 7月号

□六月号大衆結構に拝見致しました小酒井先生の毒蛇の秘密余り短い様ですもう少し沢山のせて戴けませんか

編輯後記 / (五月二十九日 池内生)

『大衆文芸』 7月号

□帝劇の「龍門党」観劇会は稀に見る盛会で、愛読者方も非常に多く参加して下さつた。当夜参加出来なかつた方のためにと、その感想をお願ひして掲載した。是非御一読を乞ふ。

吾が大衆文芸陣外伝 / 直木三十五

『不同調』 7月号

 小酒井、正木などゝ云ふ人は、本職がちやんとあつて、「不同調」を後生大事にしてゐる青年よりは、人生に於て、世間に於て、自信をもつて生きてをれる。

8月

新刊紹介

『新青年』 8月号

参照: 書評・新刊案内『疑問の黒枠』

9月

八月探偵小説壇総評 / 小舟勝二

『探偵趣味』 9月号

10月

猟奇劇 / 伊藤松雄

『探偵・映画』 10月号

 昨年のいま頃でもあつたらうか、『探偵趣味』へ私は、『探偵劇・怪奇劇』と題する雑感を書いた。
 其は主としてグラン・ギニヨウルなどの話を中心として四五の筋書を語り、併せて自分にもさうした戯曲の出現する日があらば、直ちに演出して見たい意向の在ることを附加したやうに記憶してゐる。
 併し、その后、私自身にも四五の戯曲作品が生れ、その中二三は脚光を浴びてもゐるが、さてこの『探偵劇・怪奇劇』と云ふ範疇に入れらるべきものなどは、想ひもつかない。
 他に戯曲作家諸君としても同様らしく、只だ僅に小酒井不木氏が一二篇の捕物戯曲を、しかも直接上演用としてある俳優にはめて書きおろされたに過ぎない。
 従つて私は見てもゐないが、その梗概などを聴くに、夜来上演され来つた捕物戯曲のしかも作劇術に於ては甚だ素人臭い拙劣なものであると断ずればよいやうに考へられる。
 詰りこの点が所謂『探偵劇』の極めて至難なる所以であつて、探偵小説作家としてあれだけの盛名を有する小酒井不木氏をしても、ついにこの新き試みに、惜くも土をつけさせたのではあるまいか。

原始日本探偵小説 / 長谷川伸

『探偵・映画』 10月号

参照: 翻刻ライブラリ(同時代資料編)「原始日本探偵小説」

緒生漫筆 / 本田緒生

『探偵・映画』 10月号

猫の戯れ跡 / 夏冬繁緒

『探偵・映画』 10月号

11月

(『喜多村緑郎日記』)十一月廿五日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

晴。名古屋。小酒井氏の書斎にゐると、いつみても、「人間椅子」を感じられる、偉大な椅子を見る。今日はそれにかけると、大分に「バネ」がゆるんでゐた。

(『喜多村緑郎日記』)十一月廿八日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

 土師に会ふ。小酒井、に会ふ。国枝に会ふ。かくも、ある機会の来る事を、歓迎しずにはゐられない。
 佐藤紅緑が、三人(井伊、河合、自分)へ何か書くといつて居たといふ噂。国枝史郎氏が、送つてきた脚本。大衆作家のこの脚本、新派も存在はみとめられてゐる。

編輯後記 / K、I生

『化粧之友』 11月号

     ◇
 本号に『まことに興味ある江戸時代の化粧法』の原稿を戴いた小酒井不木先生は、目下名古屋市中区御器所町字北丸屋にお住みで、探偵小説の大家として世界的に有名なお方でありますが江戸文学、随筆文学などの研究者としても斯界にその名を知れらてをります(。)先生は今後も引つゞき本紙のために、御寄稿下さることになつてをります。

(広告)『慢性病治療術』

『新愛知』 11月22日夕刊 1面

参照: 書評・新刊案内『慢性病治療術』

編輯局より / 横溝生

『新青年』 11月号

(前略)小酒井氏のものは、五月号以来のナンセンス(後略)

十月創作総評 / 小舟勝二

『探偵趣味』 11月号

12月

(『喜多村緑郎日記』)十二月七日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

   夜風の無くも月の白くある
 名古屋の旅寝は、からだの温まる事の遅くあるのによはつたりした。今日の寸楽の会合では、何れも、ラブシーンを、気まりがわるいから、などゝかたづける人たちだつた。それは合作であるから、かういふ事も口にするのだと思つた。一人で書くのだつたら、かなり甘いことを書ける人たちである筈だ。

(『喜多村緑郎日記』)十二月九日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

 朝の街のぬかるみを越えてみる冬日
   小酒井氏へ往く車にのる  冬日一杯のそこから枯れかゝる竹

(『喜多村緑郎日記』)十二月廿七日 / 喜多村緑郎

『喜多村緑郎日記』 編者 喜多村九寿子 昭和37年5月16日発行 演劇出版社

晴。「残されし一人」に就ての、井伊は満足をもつてゐる。それで、まづこつちの仕事も、いゝといふ訳だ。

自序 / 那須茂竹

『ちゝろ集』 那須茂竹 名古屋印刷 昭和5年12月25日発行

 その翌月即ち大正十二年六月「菫会」が再興され、住田先生御指導のもとに句作を行ふことになりました。その後半年ばかり松波桂城先生に句を見て頂き、それからずつと今日まで四年間小酒井不木先生の御示教を仰いで居ます。さうして文学や詩の御話をきいた結果、どうやら、少しはわかつて来たやうに思はれます。

(広告)『文芸倶楽部』12月号

「体臭の話と予防」小酒井不木
ワキガの完全な予防法や男女の呼吸の臭いで思春期にあるか否かを見究める新研究など